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2014年8月16日土曜日

49

 数字はそれそのものには意味がないのに、その抽象性ゆえに却って過剰に意味づけされてしまいます。代表的なのが4と9。すなわち死と苦で、その音のせいで日本人にとっては忌まわしい避けるべき数字として扱われがちです。だからわざわざ「死に死を足しても苦になって」と三上寛も唄いました。ただ、音のせいなので日本人以外には何も問題がない。「サンフランシスコ49ers」とか「競売ナンバー49の叫び」など、むしろかっこいいチーム名や小説のタイトルに平気で採用されています。
 「オブジェクティフ49」という名前のシネクラブもパリに存在していました。60年以上前の話です。アンドレ・バザンやロベール・ブレッソンが設立メンバーにいて、後にゴダールやストローブも加入する、映画を革新的な観点から支える集団です。ここが開催した「呪われた映画祭」というイベントが、上映プログラムを見ると途方もなく素敵なものです。もっとも今の目で見るから素敵に映るのであって、ジョン・フォードの「果てなき船路」やジャン・ヴィゴの「アタラント号」、ニコラス・レイの「夜の人々」などは当時からしてみれば、商業的成功から外れた見捨てられた映画だったのでしょう。そこにビジネスライクではない映画の見方を新たに組み立てて、ヌーヴェルヴァーグへと続く批評性を確立し得たことが、この映画祭の意義として今に知られています。
 こんなことを聞くと、高度資本主義社会から見放された呪われた古本屋たちが、商業ベースに乗り損ねた版元から出た呪われた本を集めた、呪われた古本市というのをいつか開催してみたい思いに駆られます。馬鹿げた企ても実行されれば、いつの日かそれなりの評価を得る日が来るでしょう。おそらく49年後ぐらいに。




 

『如是説法ツァラトゥストラー』
フリードリヒ・ニーチェ 登張竹風訳
山本書店 1935年12月8日初版 装幀 青山二郎
帙入り外函 四分冊 特装限定50部 
経年シミ 帙背ヤケ        

山本書店は1930年代初頭に山本武夫が興した
出版社。製本・装幀に重きを置いた美しい 
造本が特長。山本自身の生涯に謎が多く、    
山本書店の活動も20年に満たない。    


16,000円

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