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2017年10月23日月曜日

馬車馬

10/29(日) 有楽町大江戸骨董市
11/5(日) 有楽町大江戸骨董市
11/11(土)〜19(日) 松井寛泰写真展『Labyrinth』


 展示会や仕入れ、催事の手伝いなどでここ2週間ほどは忙しくしておりました。というか、忙しぶっていました。急な気温の変化で体調を崩しながらの日々だったので、苛酷な試練にでも立ち向かっているような気分がして、これは己の度量が一回り大きくなる兆しかとも思ったのですが、錯覚だったようです。
 さて、小野寺公夫さんの漆器の展示会には、会期中たくさんの方にお運びお買い上げをいただきました。本当にありがとうございます。いにしえの職人気質全開の、書で云うところの楷書体の作行きなので、生活工芸全盛の世には少し重過ぎるだろうか?と思うこともありましたが、それも杞憂で、いいものは売る側の思惑を越えるようです。人気はやっぱり椀類です。漆に潤滑の混ぜものをしない小野寺さんの漆器は、塗り肌に光の粒が定着しているように見えます。それでよく言われるように、ふんわりした印象を与えるのかもしれません。何かの折に見かける機会があったら、よく網膜に焼き付けておいてください。
 11月にも展示会を一本入れています。写真家というのか写真を媒体とした現代美術家というのか、松井寛泰という斬新さと職人肌が共存した人の展示です。写真という表現は見方がよく分からないうえに、ある見方を強制されてしまうような気がして、限られた人しか展示に足を運ばないイメージがあるかもしれません。なので、そこを覆してみたいという仄かな野心もあるのですが、大風呂敷を広げると後で泣きを見るので、今のところ煽りはこれぐらいにしておきます。追って展示会情報を更新していきます。
 それでは今週もどうぞよろしくお願い致します。



 

2017年10月11日水曜日

工人たち

小野寺公夫の仕事「漆の声、木の文法」10(火)〜13(金)は通常19時までの営業を
20時まで延長いたします。

 ただいま当店では、宮城県鳴子のレジェンド、小野寺公夫さんの作った漆器の展示会を開催中です。キミオ・オノデラといえば、「勇壮な塗りの力を持った漆器を通し、世界と結びついているという、我々の日常的感覚に隠された深淵を暴いた職人」として、国際的に評価されて然るべきだと思うのですが、なかなか物作りには厳しいこの国であります。使う器として細部まで配慮され、堅牢さと美しさのために下地から本塗りまで一切の妥協を許さない、昔気質の職人魂を発揮する工人たちの最後の末裔。そんな漆工は東北では鳴子の小野寺さんと、あとは会津にもうひとりだけです。フレデリック・ワイズマンが密着して映画化してくれたら、初日の舞台挨拶には駆けつけなければいけません。と、”失われつつあるもの”煽りをしてしまいましたが、今も現役で作り続け、それどころか新作の構想までしてるぐらいですから、小野寺さんもまだまだ枯れるつもりはないようです。
 楷書体で書かれた野太い器といった感じの小野寺さんの作品は、今の工芸シーンには退屈に映るかもしれません。しかし修練を積まずに草書に走るのは、何のトレーニングもしないでUFCのオクタゴンに上がるのと同じでしょう。奇抜な動きは体幹を鍛えてこそです。フルーツパーラーゴトーのパフェも、コーンフレークやスポンジケーキで上げ底したりせず、愚直なまでに果物とアイスクリームのみの組み合わせによる純度の高さを貫いています。そろそろ洋梨のパフェが出る頃でしょうか。去年は食べ損ねているので、今年こそは何としても・・。
 というわけで小野寺公夫展、皆さまのお越しを心よりお待ちしております!

豪快な大椀としゃもじ。





 

2017年10月2日月曜日

葡萄、漆、人生

10/5(木)・6(金) 展示会の搬入・陳列作業のためお休み
10/7(土)〜15(日) 小野寺公夫の仕事『漆の声、木の文法』

 売上げの多少の如何を問わず、パフェを食べることをあらかじめ宿命づけられた者たちが集う場所、大江戸骨董市。日曜日、素晴らしき秋晴れの下、有楽町まで行商に出かけてまいりました。当店にとっては、8月第1週目以来の有楽町です。久しぶりの出店で、大切なことをいろいろと忘れている気がしたのですが、もう何を忘れているのかさえ思い出せないので、そんな憂い事は潰れた銀杏の匂いが混じる秋の風ともに空へと放り投げてしまいました。たくさんの方にお運びお買い上げいただき感謝申し上げます。
 というわけで、比較的意気揚々と浅草フルーツパーラーゴトーへ。夏の盛りに出向いたときには、2回ほど完売による早じまいに遭ってしまい、こちらも久しぶりです。この時期はぶどうのパフェ。初物七十五日ということで、旬のものを食べて長生きでもしようという腹づもりですが、浮世の厳しさに身を窶してるくせに、このうえ長く生きてどうするのかというペシミズムも頭をよぎります。しかしテーブルへと運ばれる葡萄たちの輝きを目にすれば、そんな思いは瞬殺されます。
 注文したのは『ルビーロマンの入った14種のぶどうのパフェ』税込1,680円。三段に構成され、各位置に的確にそれぞれのぶどうが配置されています。一段目を見ても、ナイアガラ、ロザリオ・ビアンコ、クイーンニーナ、巨峰、甲斐路、スチューベンと、巨峰以外は人生で一度も聞いたことのない品種ばかり。今回はカウンターに座ったので、パフェの出来上がるまでがよく見えました。完璧な分業体制によってパフェが徐々に構築されていく厨房の様子は、まるでルネサンス期の職人の工房のようでした(見たことありませんが)。

 三段といえば、10/7(土)より当店にて開催される小野寺さんの漆器は、いわゆる本堅地と呼ばれる輪島流儀の下地による堅牢さを備えています。下地とは漆を塗る前の木地を丈夫で平滑にするための作業で、この下地付けを三回行うのを三辺地と言います。
 と、パフェの話を無理やり自分の店の展示会に結びつけたりして、浅ましい商魂が見えすいておりますが、漆器(特にお椀)の丈夫さは下地にかかっているので、そのあたりを気にしてみると、漆器の見方も少し変わってきて楽しくなるかもしれません。塗り立てのお椀なんかは、どれもピカピカしてて同じに見えそうですが、下地付けに手間がかかっている器は、張り詰めたような力感が漲っています。漆のことで気になっていることがあったら、満を持して来京される小野寺さんにぜひ尋ねてみてください。

命の塊のような、まぶしいほどの煌めき。


写りが悪くてすみません。去年買って1年〜1年半ほど
使っている小野寺さんのお椀です。使い込むうちに茜色に
変わっていくと言いますが、当初の色をもはや覚えていません。
送られてくる新しいものを見れば、その変化に驚くでしょうか。


骨董市ですだちをいただきました。人生の酸いも甘いも
噛み分けた同業氏からです。