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2014年10月31日金曜日

赤瀬川流れる岸辺

11/2(日)は有楽町の大江戸骨董市に出店いたします。
天気予報では、なんと土・日・月と雨。
なにかしら人智を越えた力が働いて、予報が覆ることを祈るのみです。

 明日をも知れない状況に身を置いた者たちが集まって、旧態然とした表現形態を打破しようと青春を浪費する、という設定が好きな人は結構いると思います。たとえばトキワ荘、たとえばヌーベルヴァーグ、たとえばネオ・ダダイズム・オルガナイザー。漫画、映画、芸術・・手段は違えど、新しい何かを産み出そうと足掻く人の評伝や伝聞というのは面白いものです。
 赤瀬川原平が亡くなりました。ゴダールより7つも下なのを思えば早い気もしますが、夭逝というほどでもなく、かといって長命でもない。あれでもないしこれでもない、いつも定義をすり抜けていく人らしいと言えるでしょうか。どんなジャンルを手がけても、重苦しくなる前に横滑りしていって、廻りは知らぬ間にその運動に巻き込まれている。トマソンなんてデュシャンより凄いぞと決めてかかって、興奮しながら町歩きをした人もいるかもしれません。
 この人の目線で古本や古道具を集めたらどうなるのか、と考えるひとりでした。蒐集はどうしても突き詰めようとして息苦しくなりがちなので、どこかに軽やかさを導入したいものですが、赤瀬川原平はその手の選択眼を持った人に思えました。
 次の大江戸骨董市が読売アンデパンダン展のようになればいいですね。なんとか雨が降りませんように。


 

 
左から『反芸術アンパン』筑摩書房 1994年初版 350円
『千利休 無言の前衛』岩波書店 1998年20刷 SOLD OUT 
『整理前の玩箱』尾辻克彦 大和書房 1982年初版 800円
『肌ざわり』 尾辻克彦 中央公論社 1980年初版 800円
『現代漫画論集』石子順造・梶井純・菊地浅次郎・権藤晋
装幀 赤瀬川原平 青林堂 1969年初版 帯欠 1,000円
『沈黙の弾機』上野昂志 赤瀬川原平論「曖昧な露骨」所収
青林堂 1971年初版 カバー背痛 SOLDOUT

2014年10月29日水曜日

子供ども

10/31(金)は仕入のため14時の開店となります。
11/2(日)は有楽町の東京国際フォーラムで開催される大江戸骨董市に
出店いたします。現時点での雲行きはあやしい気配ですが、
晴天を祈りながら皆さまのお運びをお待ちしております。

 スイス、マイエンフェルトの朝を彷彿とさせるような清らかな気候が続いています。行ったことはありませんが。しかし無限の想像力を駆使すれば、八丁堀交差点から東へ抜ける新川方面にかけて、アルプスの山々が望めるような気さえします。景気の悪さのあまり、なにか妄想と幻覚に取り憑かれたかと懸念を抱かれそうですが、今のところ大丈夫です。
 店に来るとき、保育園児たちの散歩に行き会いました。まだ2歳くらいの小さな人たちですが、人生の恐るべき一端を垣間見たかのような面持ちで歩いており、ときおり一人が表情を変えずに、竹とんぼみたいにその場でクルクル回ったりしていました。どうしてなのか子供というのは、いやに神妙な顔でいたりするときがあって、そうなると大人があやしても効き目がありません。小さいなりに思うところあって、自己の内奥を見つめているときに、いくら機嫌を取っても煩わしいだけなのかもしれません。
 古物業という商売、ビジネスに徹するタイプと頑として好きな物しか扱わないタイプがいるようで、後者にはそれこそ2歳児ぐらいの精神構造の人も見受けられます。両者が按配よく配合されているのが望ましい気がしますが、そういう自分はどうなのか。就学児童ぐらいの精神年齢には達していると思っているのですが。

『放浪』
岩野泡鳴 
新潮社 大正8年7月23日初版 
函欠 蔵書印

偉大な馬鹿と呼ばれた人、岩野泡鳴   
直情的・短絡的な性格だが皆から愛された

SOLD OUT









 
 

2014年10月27日月曜日

目白、狂騒

10/31(金)は仕入のため14時の開店です。
11/2(日)は大江戸骨董市に出店いたします。
皆さまのお越しをお待ちしております。 

 25,26日に目白のデサントホールで開催された骨董イベント、目白コレクションに参加してまいりました。と言っても出店ではなく、会場奥に設営された各店舗の放出品持ち寄りコーナーの店番としてです。物が売れない昨今、不要不急品となれば尚更ですが、しかし時勢に反して12時の開場とともに多くの人が押し寄せ、コーナーはすぐに埋め尽くされました。商品回転のあまりの早さに、手が追いつかず徐々に体力が削られ、視界が揺れて幻覚さえ見えてくる始末。ほとんどバブルが復活したのかと錯覚するほどの売れ行き。幻覚はもしかしたら80年代の喧噪だったのかもしれません。さようなら、狂乱の時代・・。
 そんな次第で、残ったら仕入に買って帰ろうと目星をつけておいた品も、目の前で次々に浚われていきます。思うように事が運ばないのが世の常、そんな辛酸も人生のスパイスに変えて頑張るぞ!などと空元気を発揮する余裕などなく、ひたすら会計と梱包のマシーンと化しておりました。とは言え、目の前で物がどんどん動いていくさまを見るのは、なかなかに楽しいものです。物と欲望と場所がマッチングしさえすれば、少し景気も良くなるのではなかろうか、と知ったふうなことを思いながら過ごしたおもしろい二日間でした。
 11/2(日)は有楽町の東京国際フォーラムで開催される大江戸骨董市に出店いたします。当店にもバブルの風は吹くでしょうか。今週もよろしくお願い致します。

橘寺重弧文平瓦残欠
白鳳時代
巾約13,5×高さ3,5×奥行8センチ


部屋の隅に転がしておくだけで
漂う諸行無常感。      
SOLD OUT





 

2014年10月24日金曜日

達人の散歩

 ある領野においてその頂きに達した者を達人と呼び慣わしています。武術であれば塩田剛三、花であれば川瀬敏郎、ひとり甲子園芸であれば柳沢慎吾・・。であれば、散歩という分野でも道を極めんとする者がいても不思議はなく、その道のりの実に良き伴走者たる存在として、株式会社交通新聞社から発行されている「散歩の達人」という雑誌があります。そして現在発売中の散歩の達人11月号の「本トピ」というコーナーで当店、書肆逆光を紹介していただいているのです。ということを言うためだけなのに前振りが長過ぎました。
 特集は「大人のラーメン 大人のうどん」。ラーメンやうどんを食べてから逆光に行ってごらんなさいよと言わんばかりの特集です。たとえば表紙に使われている竹ノ子そばの「奇珍樓」。場所はJR根岸線山手駅から徒歩9分。そこから根岸線で横浜に出て、東海道本線に乗り換え、新橋から都営浅草線で宝町から徒歩6分ほどで当店に着きます。所用時間は50分強。近いです。あと気になったのは「勝味屋」の耳うどん。東武佐野線佐野市駅から車で9分ですから、徒歩だと1時間15分ほどでしょうか。佐野市駅から佐野線で館林、特急りょうもうで北千住に出て、日比谷線で八丁堀まで。たぶん3時間ぐらいです。けっこう近い。このようにラーメン・うどんと古物の見事なコラボレーションが成立したこの号は、ポパイなんかを立ち読みするとよく書いてあるマストバイというやつでしょうか。皆さまのお越しをお待ちしております。

ラーメン、うどん、いずれの店も絶妙のセレクト。
ノスタルジーと最前衛の完璧なマッチング。   

店にお運びの際は、ぜひラーメンとうどんの
話を聞かせてください。         

 

2014年10月20日月曜日

即かず離れず

10/23(木)は仕入のため14時頃の開店になります。
よろしくお願い致します。

 ちょっと近所に用事に出たら、前田日明が招聘したのかと思われるような体格の外国人男性が犬の散歩をさせているところに遭遇しました。犬はブルドッグ。あまりの厳めしい組み合わせに、却って微笑を誘われる光景でした。ただ、芭蕉が見たら「つき過ぎである」と言ったかもしれません。格闘家のような風貌の人間と、雄牛と闘うために生まれた来歴を持つ犬種とでは、興趣がいかにも合い過ぎています。だからと言って、連れている犬が生後2ヶ月のティーカッププードルであればいいのかというと、それも問題です。それでは可愛すぎます。すでに反則です。前田日明も二度と呼ばないでしょう。
 取り合わせとは難しいものです。「つき過ぎ」をあまり恐れると奇を衒うこととなり、いわゆる「離れ過ぎ」になってしまう。そこで離れ過ぎを警戒すれば、たちまち凡庸に陥る。当店なんかは商品として古本と古道具を並べてるのですが、「要するに古いものつながりで置いてるわけね、ありがち」と思われるか「雰囲気があって、いい感じ」となるかは、まさに店主の裁量如何というわけです。そのものにふさわしい場所があると信じて、コップを窓際に並べてみたり、タイルを2センチ右に動かしてみたり・・際限のない迷走状態に陥って、セブンイレブンの有機むき甘栗をドカ食いしてしまう始末。
 世の人の見付けぬ花や軒の栗-----芭蕉 といった感じでしょうか。今週もよろしくお願い致します。





即き過ぎの例

『新洋酒天国』 佐治敬三 文藝春秋
1975年11月25日初版     
700円    
「ワインボトル」
オランダもしくはベルギー
                             18C末 高さ20.5×胴径9.5センチ     
SOLD OUT

離れ過ぎの例

『チェコスロバキアのすべて』
チェコスロバキア大使館文化広報部 1972年
500円
「理科の実験道具 三脚」
  高さ11.5×上部径11.7センチ
1,200円


2014年10月15日水曜日

オホーツク、モッズ、その他

10/17(金)は所用のため開店が16時頃になります。
10/18(土)は仕入のため13時頃の開店です。
なにとぞよろしくお願い致します。

 三軒茶屋のキャロットタワー3階にある生活工房ギャラリーで開催中の「7つの海と手しごと《第5の海》オホーツク海とウイルタのイルガ」を開店前に見てきました。役所の出張所の空きスペースの陳列コーナーといったおもむきですが、展示はきれいでキャプションも手抜きがなく、そのうえ入場無料です。《第5の海》ということは、同じコンセプトの企画がすでに4つ開催されていたわけですが、寡聞にして知らずに今まで生きていました。 
 ついでに記しておきますと、《第1の海》がカリブ海とクナ族のモラ、《第2の海》が北極海とイヌイットの壁かけ、《第3の海》が地中海とトルコのイーネオヤ、《第4の海》がギニア湾とヨルバ族のアディレだったそうです。不勉強でいずれにもしかとした知識はありませんが、こういう企画が通る世田谷区の豊かさに、仄かな嫉妬と羨望の念を抱かずにはおれません。
 この生活工房ギャラリーの11月からの企画が「モッズスーツと洋服の並木」。いったいどういう経緯を踏まえれば、今の日本でこんな小粋な企画が実現するのでしょうか。そろそろ洋服の並木を語るにはうってつけの時期が来たようだ、と誰かが言い出したら満場一致で採決されたとでも言うのでしょうか。ことによると、康芳夫みたいな人物が世田谷に関する文化事象一般のプロデュースを全権委任されているのでは、と疑ってみたくもなります。生活工房ギャラリー、断固として侮れない存在です。


土器の破片 アグアーダ文化
アルゼンチン 7世紀頃
現在のペルーとアルゼンチンの国境付近の山の麓に
栄えた文化。アグアーダとは貯水池の意。    
線刻されているのはジャガーの目と爪の部分。  
最長部5.5×5.3センチ


SOLD OUT


返り咲くこと

10/17(金)は所用により16時頃の開店です。
10/18(土)は仕入のため13時の開店です。
ご了承くださいませ。

 二度書き、二度窯、二度あることは三度ある・・、「二度」の付く言い回しには良いものがなさそうですが、二度咲きはどうでしょう。9月の終わり頃には噎せ返るほど辺りを満たしていた金木犀の匂いも、徐々に薄くなってきて寂しいなあと感じていたら、また最近そこらで匂うようになりました。萎んで小さくなってた花がまた咲いたのか、残っていた蕾が開いたのかは分かりませんが、明らかに二度目の開花です。
 ネットで調べてみると、金木犀の二度咲きというのはよくあることのようです。ただ普通二度咲きというと、春に咲いて秋にまた咲くような、いわゆる返り咲きのことをいうのかと思っていましたが、いろいろあるものなんですね。
 返り咲きで思い出すのが、ジャイアント馬場とハーリー・レイスのNWA争奪戦。佐賀スポーツセンターで、馬場のすごいランニングネックブリーカーが決まってレイスからベルトを奪取。が、その6日後の大津市大会の初防衛戦で、馬場は何を思ったのか、リング上に倒れたレイス向かってコーナーポストに上って技を仕掛けようとします。ふだん飛び道具なんか見せない馬場がいったいどうするつもりなのかドキドキしていたら、起き上がったレイスに片足を引っ張られ、ポストに股間を直撃、もんどり打ってリング内に落ちてきたところを片エビに取られて、あっさりスリーカウント。「ハーリー・レイス返り咲き」の倉持アナの実況の声とともに、人生のままならなさを子供心に知ったのでした。
 そんなわけで、返り咲きの金木犀が匂うたびに、馬場の悶絶顔とレイスのひげ面を思い出します。




左から                       
『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』      
増田俊也 新潮社 2011年11月30日11刷        
1,300円
『プロレス血風録』                  
田鶴浜弘 双葉社 1968年11月15日初版        
1,200円
『鉄人ルー・テーズ自伝』               
流智美訳 ベースボール・マガジン社 1995年3月3日初版
1,000円



 

2014年10月14日火曜日

牛と白磁

10/17(金)は古物商等署別法令講習会というのがありまして、
店を開けられるのが16時頃になりそうです。
遅い開店時間ではありますが、夕暮れどきの界隈散策の途中に
お立ち寄りいただければ幸いです。

 根津美術館で開催中の「名画を切り、名器を継ぐ」展を見てきました。柏木貨一郎旧蔵の駿牛図が出ていることをお客様から聞き及び、それならば眼の玉に焼き付けておかなければいけない、と思い立ち駆けつけた次第です。
 貴族の乗る牛車を牽く牛のなかでも特別に姿形の美しい名牛は、『駿牛絵詞』などにまで描かれる存在だったとのこと。いま目にすることのできる駿牛図は、一図ずつに離された断簡です。柏木旧蔵の駿牛図は素晴らしいもので、手の平で叩いたらビタビタとした感触が伝わってきそうな黒毛和牛の筋肉の張りを墨の濃淡だけで表現しています。あまり声高に物欲を表明するのははしたないので、カヒミ・カリィぐらいの声量で「ちょー欲しい」と呟いて我慢しておくことにしました。
 志賀直哉から上司海雲に渡った東洋陶磁の李朝白磁の壺も初見でした。入口からもう紗幕越しに見えていて、なんかすごいものがあるなという感じでしたが、順路の最後に鎮座していたのが、その白磁壺でした。盗んででも手にしたいものですが、実際いち度盗まれかけて粉々になってるわけですから、もう止めておいた方がいいでしょう。泥棒は荒縄かなんかで縛って担いで盗っていこうとしたのでしょうか。前抱えで走っては、体のバランスが保てないと思います。どこか運動イメージを想起させずにはおかない形の壺だと思いました。
 それにしても、昔の人の名品名画名筆を切断して、コラージュ、トリミングしてしまう大胆さには驚きますね。その場にいたら「もったいないからやめなさいよ!」と叫んでしまうと思います。美への飽くなき探求というよりは、とどまることのない業の深さに当てられますが、そういう生々しい感じを受けるのも本物を前にしてこそでしょう。
というわけで、今週もよろしくお願い致します。



『白樺 第三巻第八号』
大正元年8月1日 表紙デザイン 有島壬生馬
柳宗悦、木下利玄、武者小路実篤
最終頁角破れ有り
700円

 
 
 
『車のはなし』
モウド・ピーターシャム、ミスカ・ピーターシャム共著
廣島図書 1949年12月1日
2,000円



 



2014年10月11日土曜日

紙片及び詩篇

 仕入と買取で少し本が増えて、店が古本屋みたいになってきました。生業が古本屋ですから、そのこと自体は実に申し分のない話ですが、競り落としたものの中に時おり混じっている謎の紙片の扱いに頭を悩ませています。と言うわりには、そこらへんに放ったままにしてありますが、これらが日の目を見るときは来るのでしょうか。
 たとえば、吉祥寺にある時計店のチラシ。期間中百圓以上の買上げで抽選ができるとのことで、当選した暁には、買上げ金額全額が返金されるという魅惑的な文言が紙面に踊っています。薄紙のペラ1枚に赤一色で刷られて、端っこがちぎれて折りジワがくっきり残っています。状態から推察するに、特に大事にされてはいなかったようですが、廃棄までには至らなかった。その理由を探るために名探偵コナン気分になるのも一興ですが、それでたったひとつの真実を見抜けるかは定かではありません。
 「北京のどぶ」と書かれた小さなフライヤー。一橋大学演劇研究部と女子美術大学演劇部の名が表記されているので、共同企画による芝居の宣伝なのでしょう。新書サイズの水色の紙を二つ折りにしているので、文庫本より小さいサイズです。中にはアジテーションめいた文言。裏に記された場所と日時の案内には、都電高円寺一丁目下車とあり、時代特定の大きなヒントになります。
 その他、有線放送電話機の使い方だとか蚕糸の光一月号付録だとか、なぜこの世に残ったのかよく分からないものが結構あるのです。そこに書かれた言葉は、もちろん容易に読解可能な情報を伝えているのですが、徐々に意味が剥落して詩に近づいているようにも見えてきます。

上左から「協和堂時計店チラシ」「日立製作所 有線放送電話機の使い方」
「立体版画の技法」立体版画普及会発行       
下左から 「最新桑園経営年中行事」「北京のどぶフライヤー」「千代紙?」

2014年10月7日火曜日

鼻と夢

10/9(木)は仕入のため14時頃の開店予定です。
10(金)・13(月)も仕入で13時の開店です。
どうぞよろしくお願い致します。

 台風一過で秋空がいっそうグンと高くなりました。このままどこかに走り出したくなる気持ちよさですが、特にどこといって行くあてもないし、割とまだ気温が高くてすぐに疲れてしまいそうなので、自分の店に行くことにしました。仕事なので当たり前の話ですが。
 今どき一人で小商いをやるとすれば、店舗を持たず、まずはネット販売を主軸にして、そこから探りを入れながら徐々に手広くしていくのが、選択としては賢明なのかもしれません。金もコネもないくせに店を出そうなんて、とんだ間抜け野郎だぜと笑われても仕方ない時勢に、頓痴気な反時代的愚挙に打って出るというのは、底抜けに楽観的なのか、少しばかり自己愛が強いのか。
 ただいずれにしろ実店舗を持って楽しいのは、人が来てくれるということです。今日も窓から青空を見上げていたら、茅場町の活版屋の杉田さんが、中村活字さんから聞いたと言って、不意に訪ねてきてくださいました。この道六十数年の活版業界の伝説の人です。で、八丁堀界隈の地誌に始まって、鴻巣人形、東秩父、深沢七郎、満州引き揚げ、永井荷風、岐阜県八百津町、小林秀雄など、誰かからの聞きかじりではなくて、全て杉田さん自身の体験談を話してくださる。こんなの聞いたら、1万2千円ぐらいは払わないといけない気分になります。ちょっと手元になかったので黙っていましたが、本来であれば日本橋公会堂あたりに聴衆を集めて聞く話でしょう。
 と、こんな調子で鼻高々になって夢見ていられるのだから、暢気と言えば暢気な商売です。今週もよろしくお願い致します。


 
 
 
北向きですが、晴天の日中はやわらかに自然光が射し込んで、割と明るいです。
なにか気になるものが写り込んでいましたら、お気軽にご連絡ください。   

2014年10月4日土曜日

颱風が來るから

出店を予定しておりました明日10/5(日)の大江戸骨董市は台風接近による天候不順のため、中止となりました。
1989年に西武球場で行なわれた渡辺美里のコンサートのように、豪雨の中をひとり敢行ということも考えたのですが、①主催者に迷惑をかける②そもそも誰も来ない、という点を鑑みて素直に中止いたします。
当店の次回出店予定は11月2日です。よろしくお願いいたします。

 さて、明日の骨董市でひと財産稼ごうと自分なりに綿密な月次対策を練っていたのに、天候与件により計画は脆くも瓦解。もとよりザルのような皮算用だったので、この後の補填策は一切考えておらず、今月をどう生き延びるか、ひりひりとした緊張感が一気に高まってきました。という割には、店主は店で間抜け面で座り込んでいるだけなのですが、実は壮大な経営計画が脳内では展開されていて、壮大すぎてどうしていいか分からず、端からはぼんやりして見えるのです。過ぎたるは猶及ばざるが如しというやつでしょうか。もっと身の丈に合わせた店舗運営を実行していかないといけませんね。ますく堂の増田さんなんかは、経営計画?そんなの糞食らえでしょ、という感じの鷹揚さがあるので、見習いたいところです。
 天変地異災害が多い昨今です。週末週明けにかけてはどうぞ気をつけてお過ごしくださいませ。

『少年』
北杜夫 中央公論社
1980年4月5日22版 帯 ビニールカバー

事がうまく運ばない時には、なぜか北杜夫が
読みたくなります。抒情とユーモアの中編。
SOLD OUT











 
 
 

2014年10月3日金曜日

リーマン予想

10/4(土)は仕入のため14時頃の開店となります。
ご了承くださいませ。
10/5(日)は有楽町東京国際フォーラムで開催される大江戸骨董市に出店いたします。今のところ怪しい雲行きですが、それに負けないくらい怪しいものを用意したいと思っております。

 八丁堀茅場町界隈のランチを求めるサラリーマンたちの喧噪を、そのままウチの店にも反映させることができたら、それなりに財を成すことができるのではなかろうかと妄想することがありますが、短い休憩時間をわざわざ費やしてもらうに足る逸品があるわけでもないので、やはりそれは妄想に過ぎないのかもしれません。
 逆境転じて好機と成すというようなプロジェクトX的才能が圧倒的に欠如しているので、機を見て敏に動けないのが、我ながらもどかしいところです。まずは失敗を前提として、いろいろ挑戦するべきなのでしょう。
 考えてみたのは、惣菜屋さんとのコラボレーション。サンドウィッチのどれかひとつに池波正太郎の文庫本が挟まっているとか、チキン南蛮弁当の付け合わせの卵焼きが、よく見ると黄瀬戸の陶片だったとか、おにぎりの海苔にロレンス・ダレルの黒い本のカバーを使うとか、ろくでもないとは言え、いくつかアイデアはあるのです。お弁当で提供できるほどの黄瀬戸が集まるのかという問題もありますが、どうなんでしょう。やらずに後悔するよりやって後悔しろとは言いますが、やらずに済むならそれに越したことはないこともあるはずです。





『円と楕円の世界』
後藤明生 河出書房新社 
1972年11月15日初版 帯少破れ
2,500円

「PとT、1 2 3 4 Aと刻印されたダイス」
アメリカ製のボードゲームのダイスだそうですが、
詳しいことは分かりません。ご教示願います。  
SOLD OUT


2014年10月2日木曜日

不当廉売の疑い

10/4(土)は仕入のため開店時間は14時頃となります。
なにとぞご了承くださいませ。
10/5(日)は有楽町の東京国際フォーラムで開催される大江戸骨董市に出店いたします。
天気は不穏な方向に傾きつつありますが、晴天を祈りながら、楽しいと思っていただけそうなものを準備中です。

 トマス・ピンチョンの『重力の虹』上・下がついに刊行されました。新潮社の「トマス・ピンチョン全小説」の当初予定されていたシリーズの最終配本です。全国有力書店店頭にて平積みされているのを見ることができるかと思いますが、版元や取次の配本パターン等ののっぴきならない事情もありますから、在庫がないからといって、ただちにその書店が無力であるという証左にはなりません。追って入荷があるか、その気配がなければ注文しておくことをオススメいたします。
 価格は上・下巻で税込9,072円。この値段で味の良いそば猪口などを見つけるのは、かなり至難であると思うので、ピンチョンのこの翻訳本は不当に安いと言わざるを得ないでしょう。初期の手の猪口が3〜5万ぐらいとすれば、『重力の虹』には13万8千円ぐらい付けてもおかしくありません。そば猪口とピンチョンを比べるのは、少しおかしいですが。なにしろ、13万8千円出さなくてもこの途方もない小説が読めるというのは、斜陽と言われている業界の出来事とは思えないぐらいに度外れて恵まれた事態です。ちょっとしたお祭り気分かと思いきや、今のところ誰かの口からピンチョンという固有名詞が発せられたところを耳にしていません。不思議です。

ジャンクや見捨てられたものへの偏愛が満載の小説『重力の虹』上・下

前列左から 鍛鉄の釘 江戸時代、ハーモニカの中身 SOLD OUT アルミ箱 SOLD OUT 
          アメリカ製クリップ SOLD OUT、ドイツ製吊るし秤 SOLD OUT 白磁のおろし金 SOLD OUT       
中列左から 火熨斗、缶ケース2つ、ノルウェー製スキーのワックス缶 SOLD OUT      
                         歯の治療器具(印象材トレイ)、中国製雀牌型トランプ SOLD OUT ライター、繭皿 SOLD OUT
 カードスタンド                     
     後列左から アルミ水筒 SOLD OUT 実験用三脚 SOLD OUT 『重力の虹』、リール SOLD OUT 焼いた煎餅を置く網 SOLD OUT