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2017年4月22日土曜日

猥穢夢示威海鷂魚(わいえむしいえい)

 いったい何者の集まりなのか、その名前だけは夙に耳にしていた伝説的な流浪の劇団・水族館劇場が新宿花園神社に初お目見えするというので、ついに見に行ってきました。野外劇にこだわり、出来合いの劇場や芝居小屋を使わず、演じる小屋はすべて自分たちで設営するという怖るべきDIY精神。加えて数トンの水を使う演出など、その舞台装置が大掛かりであるために、場所探しまでが困難を極め、数年間興行を打てないこともあるとのこと。
 初夏のような昼の日差しから一転、花園神社に着くやいなや、つげ義春のゲンセンカン主人のひとコマのような風がビョウビョウと境内を吹き抜け、すでに何らかの演出が為されているかのような錯覚を受けます。鳥居の朱とテントの黒が奏でる禍々しいコントラストによって、一気に気分を非日常に持っていかれます。演目は『この世のような夢・全』。シノプシスを読めば、獣を屠る馬殺しの井戸、龍が棲んだ伝承を持つ池、赤い風車の館、老女優、飛行機乗り、囚われの少女の幻影、火山局の技師など・・何かそれっぽいことが書かれてはいますが、現実の芝居を前にして、記号の答えあわせのようなことをしても意味はなく、都度更新される驚きに身を任せるしかありません。
 開演前に座長が、「こんなのは全部まがいもののバッタもんだ」といった口上を述べていましたが、たしかにまがいものにまがいものが連なり重なって、どこに本物があるのか探る間もなく終演まで連れていかれます。異界から齎された不可解なものという、これが藝能の原初的なあり方でしょうか。思えば、先日当店にて催された仔鹿のまなざしのイベントで行われた門付にも、そんな雰囲気がありました。日常空間であんなにやたら銅鑼や太鼓を打ち鳴らしていたら警察沙汰になりそうですが、あの場では猥雑な荘厳さを感じてしまいます。
 もっと言えば、商いだって藝能の兄弟みたいなものですから、どこから持ち帰ったのか分からんようなものが並んでいたって構わないわけです。そのあたりは古物業において特に顕著かもしれません。そういえば、JINTAの長谷川迅太氏が5/2(火)〜7(日)に清澄白河の幾何で開催する『open studio at kika』には、その気配が濃厚に感じられそうです。「見た事もない手探りのモノ探しと制作」という途方もないキャプション。大型連休のどこか一日は、清澄白河に行くための空きを確保しておかなければならないようです。ついでに八丁堀の分も時間を割いていただけましたら、それは望外の喜びです。


なかったはずのものがあるという驚き。花園神社境内に
忽然と現れた黒テント。              
当日はテント幕がバサバサと風に煽られていました。
不穏な見世物小屋のような。            

本公演の前説のようにテントの外で行われる劇。

ここで何が行われるのというのか。公安部は
すでに察知しているのでしょうか。    













2017年4月21日金曜日

10兆㎝ノミの市

 今月23日(日)に長野県松本市大手二丁目にある、木工作家三谷龍二さんの店「10㎝」の隣りの庭で『10㎝ノミの市』が開催されますが、逆光もそこに出店いたします。その前日から京都蛸薬師通河原町の元・立誠小学校では『京都ふるどうぐ市』が催されていて、あたかも裏番組的に向うを張ったようになってますが、主催者にことさら対立を煽る気構えはないはずで、むしろ京都を満喫した後に、ぜひ松本にも足を運んでもらおうという意図が隠されてさえいるのではないでしょうか。八条口乗り場から松本バスターミナルまでは高速バスが出ていて、7時間15分ぐらいで来られるようなので、猛者のお越しをお待ちしております。
 出店業者はうまのほね草の音スヰヘイ社トトトトnest、のふて、志村道具店渡辺遼の精鋭各氏。加えてオオヤコーヒとポフトボナーの両氏による屋台も出ますので、北アルプスの山々を彼方に見やりつつ、コーヒーとカレーを飲み食いしながら、美しいものや意味不明なものの物色をお楽しみください。では、23日の日曜日は松本でお会いしましょう。


松本に持ち込む品物を選定しなければいけません。やらなければならないことが
差し迫っている時ほど、人はそこから最も遠い事に集中してしまいます。   
さっきまでなぜか、日本産サンショウウオの種類をすべて覚えようとしていました。




2017年4月12日水曜日

近くの太鼓

 8(土)に開催されたイベント『仔鹿のまなざし 八戸えんぶり(八太郎えんぶり組)編-2-』はお蔭さまで大盛況でした。主催、出演、お手伝い、ご参加いただいた皆さまに心よりの感謝を申し上げます。
 主催・主宰は、日本各地の民俗芸能をWebで発信している仔鹿ネット。なにやらブルバキのような気鋭の集団を思わせますが、所属は高橋亜弓さん一人、他に活計を得ながら時間を作って方々を廻っています。研究者でもなく、支援を受けて取材しているわけでもない、言わば好きが昂じての行為ですが、それゆえなのか、彼女が撮ってくる映像はとても爽やかというか健やかに見えます。話を聞けば、その都度我が身を使い果たすかのような状況での取材で、蓄積を旨とした拡大再生産には目もくれないようです。清新の気風は、常に効率を度外視したところから生まれるのでしょうか。まさに祝祭のための蕩尽、普遍経済を地で行っています。
 有用の観点からすれば、芸能というのはなくてもよさそうなものなのに、その実それ無しでは生きていけないぐらいに人の営みに密着しています。古物の商いもちょっと似たところがあるでしょうか。今回はなんと、韓国農楽研究の神野知恵さんと韓国太鼓奏者のチェ ジェチョルさんと亜弓さんによる予祝の芸によって、当店を門付してもらいました!祝福の気韻を帯びた言霊が、今でも小さな店内を漂っています。言祝ぎの空気を浴びにぜひいらしてください。


こちらは八戸えんぶりではなく、えんぶりに先駆けて取材して
きたという韓国の旧正月の祭礼、高敞(コチャン)農楽。
寂寥とした雪景色の中をカラフルな衣装を着て、鳴りものを
打ち鳴らしながら、遠浅の海に向かっていく様は、まさに
アンゲロプロスの世界。アジア版旅芸人の記録。

今回は茣蓙を敷いての開催。祝祭の匂いをもたらす三人。

八戸の酒とあて。



奉納シーン。


勇壮でかっこいい摺り。

 
えんぶりの太夫がかぶる烏帽子と寸分違わぬ作り方で
作られたミニチュア烏帽子。欲しいですね。


先の韓国での一枚。見ているだけで寒くなります。
雪の白と衣装の彩りの対比が美しいのです。


三人による予祝芸。茣蓙が集落の寄り合い感を濃厚に
醸し出しています。