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2018年8月18日土曜日

ゾゾゾタウン

 8/25(土)-9/2(日)に当店にて開催する『柿渋染めかばん展』のお知らせです。柿渋で染めた鞄を展示するという、展示タイトルに一切偽りのない催しです。Yoshino Yashimachi(よしのやしまち)という名義で活動する、鞄作家と言っていいのかどうか、とにかく今は鞄だけを作っている青年の手になるものです。コットン紐をシルクのミシン糸でジグザグに縫いつけて柿渋で染めて出来上がる形と風合いは独特です。
 食うに困ってアパレル業の真似事を始めたように思われるかもしれませんが、それだと半分しか当たっていません。よしのさんとはとある場所で出会ったのですが、その時持ってたお手製鞄が素晴らしかったので声を掛けたら、展示の運びとなったというのがもう半分です。毎度のことながら成りゆき任せで今日まで生きてみましたという感じで感慨深いです。
 展示の打ち合わせをしに、後日店に来てくれたよしのさんが「鳥の巣の造形に憧れる」と言ったのが印象に残っています。鳥は小枝や枯れ草などを材料として唾液と混ぜ合わせて巣を形づくっていくのですが、よしのさんは自分の鞄の作り方はそれをなぞっていると言います。コットン紐が枝とか草で、シルクは蚕の口から分泌される唾液みたいなもの。という話を聞いて、妙な生々しさを感じておもしろいと思いました。会期中は古物や古書も仕舞い込まずに、鞄といっしょに並べておきます。鞄と古物、古物と古書、古書と鞄・・いろんな「と」の間を揺蕩っていただけたら幸いです。お待ちしております。



大中小の3種類を展示販売いたします

大 巾44×高さ31×マチ10センチ
採寸はだいたいです。個体差があるのであくまで参考程度に。

柿渋の発色は使用するシルクの色でかなり変わってきます。
これはオレンジに染めたシルク糸。染めは京都の染め屋さん
に発注しているそうです。               

出来立ては柿渋に塗り固められてる感じですが、使っている
うちに柿渋の色が落ちて形もクタッとしてきます。    

これは鉄分を媒介させて黒めに上げた柿渋
中サイズです。巾35×高さ27×マチ10センチ

小 巾27.5×高さ24×マチ14センチ
コロンとしてかわいい形。柿渋の染め直しもしてくれる
 とのことです。                   

2018年8月13日月曜日

夏枯れの黄昏のための言い逃れ

インスタグラムもぜひご覧ください→👃 

 お盆休みに入りましたが当店は通常営業です。この時期の中央区の醍醐味は、近辺から人々の喧噪が消えてしまうこと。昼時にランチを求めて行き交う勤め人もいなければ、通りを走り抜ける車も概ね見なくなる。代わりに黄泉の国からの来訪者の気配を、感じる人は感じるのかもしれませんが、自分はそのへんは鈍いので辺りはやはり静かなままです。『ミツバチのささやき』で、アナとイサベルが寝室で交わす会話のように密やかな声だけが、時おり物陰から聞こえてくるぐらいです。見る物すべての輪郭がぼやけている白い世界。その片隅の仄暗いビルの一室。そこに佇む物。
 そういえば、神楽坂のマキファインアーツで開催中の『メルド彫刻の先の先』を見てきたのですが、そこの物の佇み方には触発されました。レディメイド、もの派、アルテ・ポーヴェラなんかに興味を持つ人は、引っかかるところがあると思います。そして同じ建物の3FのSprout Curationでは『中原昌也 個展』をやってました。閑静な家並に混じっての先鋭的な展示に少しばかり興奮してしまい、心の昂りを抑えるために帰りに紀の善に寄ることを余儀なくされました。
 そんな自分の中の佇み熱を更に加速されそうで楽しみなのが、トライギャラリーおちゃのみずで開催される『長谷川迅太 キッチュ|Kitsch』です。物への対し方が、直感的なのかもしれないけど、期せずしてそれが批評的にもなっているという目を持った人です。合わせて清澄白河幾何、神田TETOKAでもいろいろな展示が行なわれるとのこと。夏枯れどころではなくなりました。当店はといえば、その前の週から『柿渋染めかばん展』というのを催します。柿渋で染めたかばんを並べる、タイトルそのままの展示です。詳細は追ってお知らせいたします。
 というわけで、お盆も爽やかに営業しておりますので、心おきなく八丁堀までお運びくださいませ。

ちょっとメルドっぽく並べてみました。気になるものが
写り込んでいたら、お気軽にお問い合わせください。 


マキファインアーツにて。段ボールやパッケージをハガキ大に
切って、絵ハガキとして売る麻生晋佑のプロジェクト。1枚25円。

DM、当店にて配布中。とりあえず1枚ずつ取って、
鞄の中に入れておいた方がいいです。       

紀の善にて。白玉ぜんざいにアイスクリームをのせる
という暴挙。                  

2018年8月4日土曜日

モンキーフリップツーリズム 後篇

 前回まで〜 地球規模の変革が問われる今、一介の古物商が為すべきこととは何なのか。西にその答えありと踏んで始まった東海行脚。そして自家製ジャムののったトーストを食べ、皮がパリッとした鰻を食べた。

 というわけで、Hさんのお店にはSさんに車で連れていってもらったのでした。窓越しに見る外観からして、すでにフォトジェニーなオーラを漂わせています。それでいながら、辺りを払うようなこれ見よがし感がないのは、店主の性格と才量によるものでしょうか。Sさんのところといい、岐阜の発するオルタナティブな気風は革命の萌芽を予感させます。夜にはHさん行きつけの、これまた旨いものを出すお店に案内していただきました。近辺に軒を連ねる飲み屋のレベルがどこも高そうで、田中小実昌のような徳を備えてないと、おいそれとは入れなそうに思えました。
 ところで懸念されるのは台風の進路で、なにやら変則な動きで人々を困らせているようです。次の朝は大須の骨董市に詣でて一山当てようと目論んでいたのですが、仮に開催されても出店はかなり少ないでしょう。果たして勇んで乗り込んだ大須観音ですが、案の定出ている人たちはいつもの半分以下のようです。それでも買い出し屋さんの荷解きを待って、ガツガツと漁ってまいりました。
 観音様脇の喫茶店でのモーニングの最中、S氏が愛知の異能の古物商Oさんに連絡を入れていました。Oさんの品物の選択眼やスタンスは、自分にとってほとんどリスペクトの域に達しています。この日は旅の目的のふたつ目である愛知県陶磁美術館の『知られざる古代の名陶 猿投窯』を見に行くことになっているのですが、大須に仕入にやって来るOさんが、合流後に美術館まで車で送ってくれるとのことでした。なんという僥倖。
 途中から美術館への道は、2005年に開催された「愛・地球博」会場への輸送手段として建設されたリニモの高架下に沿っていきます。ふいに書店勤務時代に、この万博関連の書籍やグッズが、売場に並べ切れないほど納入されてくるのに嫌気がさしたのを思い出しました。「なにがモリゾーとキッコロだちくしょう!こんなもの爆発してなくなってしまえ」ぐらいには怒っていたような気がします。このとき衝動に従って会場を爆破していたら、こうして愉快な珍道中にも出られなかったわけで、人生の内に遍在する機運を感じずにはいられません。さて、陶磁美術館の展示は言わずもがなのことながら、欲しいけど手に入らないものだけが並んでいました。指をくわえて見るという所作だけが妙に洗練されてきたりして、指咥道という流派を設立しようと思ったぐらいです。
 この後はOさんが多治見近辺の骨董屋さんを案内してくれて、何軒かお店をのぞくことができました。一応仕事のつもりでいるので、仕入の機会が増えるのは良いことです。品物の筋が東京とはずいぶん違うところがあって、そんなのを目の当たりするのも新鮮でした。多治見駅でOさんと別れて、名古屋に出てきしめんを食べて東京に戻ってきました。台風の雨脚とは微妙にズレていたようで、濡れずに帰ってこられたのですが、日頃の行ないの良し悪しは関係なさそうです。いろいろとお世話になることが多く、人の親切が身に沁みた旅でした。では、8月もどうぞよろしくお願い致します。
 

岐阜で見かけた一軒。とつぜん左腕の静脈を切断されそうな
佇まい。                       

大須観音。初めてやってまいりました。雨が降ったり止んだり。 
愛知県陶磁美術館の中庭。この頃には台風の気配が一時的に
消え去って、夏休みの始まりみたいな青空でした。    

南山9号窯跡。平安後期〜鎌倉後期のもの。

今展示の図録。税込2,500円           
図版はもちろん、資料ページも充実していています。
王様のブランチのブックランキングで紹介されても 
おかしくありません。              






2018年8月1日水曜日

モンキーフリップツーリズム 前篇

 皮膚を焦がす日射しの下、朦朧の体で店にたどり着いて冷房をつける。いつまでたっても涼しくならない。どころか、むしろ暑くなってきてさえいるのは何故だろうか。平成最後の夏が呼び起こした感覚崩壊・・と思ってエアコンの設定を見たら暖房になっていました。いっそもう旅に出たい・・。ということで、一泊二日の痛快東海ツアーに行ってまいりました。
 朝、名古屋に着いた人間が最初にするべきはモーニングを食すことですが、数ある喫茶店からひとつをチョイスするのは、人間性を試されているかのようで少しく緊張を要します。選んだところは名駅から歩いてちょっと、国際センター駅近くに三棟並ぶ花車ビルの一番古い南館に入る「KAKO花車本店」。クリームチーズと自家製コンフィチュールがのったトーストを注文しました。名古屋ではじめて自家焙煎のコーヒーを出したのがこの店だそうで、テーマパーク的レトロとは確実に一線を画した佇まいです。さすが名店、開店の9時を30分もまわると早くも満席。なかなかスポーツ新聞を開いてゆっくりというわけにはいかず。幸いにして名古屋も数日前の地獄の季節からは抜け出していて、歩いて名古屋駅まで戻っても命に別状はなさそうです。名鉄の駅で待ち合わせをして、頼れる同業仲間K氏S氏と岐阜の骨董屋さんに向かう手筈になっているのでした。
 今回の旅の目的のひとつは岐阜の名店探訪。赤い電車に乗って小駅で降りるとSさんが車で迎えに来てくれていました。まずは腹ごしらえに、地元の老舗の鰻屋に連れていっていただけるとのこと。眼前に山を臨み満々と水を湛える川が流れる豊かな土地。が、軒を連ねる商店はかつての繁栄を偲ばせるふうな様子。窓越しに過ぎていく沿道の街並は石のように黙殺された(©横光利一)という感じです。その中で、当の鰻屋さんだけが今なお往時の賑わいを見せてるようで、店の前には結構な行列ができていました。鰻を焼く匂いが辺りに漂っていて、それをおかずにご飯を食べればもう十分な気もするぐらいです。そんな古典落語の演目みたいな真似をしても誰も褒めてくれないので、もちろん店内で本物をいただきました。関東と違って蒸さずに焼くそうで、パリッと香ばしい皮の旨さに驚きました。
 さて、Sさんのお店というのが山道をグイグイ縫うように上った先にありまして、これは東京の小洒落たクリエーター集団が、予算をふんだんに使いエッジを効かせたデザインを実現させたところで到底叶わない先鋭的な立地と造りです。Sさん本人にとっては生活圏にある日常の一部でも、こちらにすればローリングトウェンティーズのような眩しさ。人を逸らさぬSさんの話と店の佇まい、品物の筋・・岐阜の骨董シーンはここから発信されているのだと思いました。その日はSさんと並ぶ岐阜の雄、Hさんのお店にも伺う予定になっていて、当初は電車とバスを乗り継いで行くつもりでしたが、それなら車で送りましょうとSさん。怖るべき優しさ。目の前が霞むのは台風接近に伴う湿度の増加のせいではなさそうです。なんだか要領を得ないことをダラダラ書き連ねました。後篇に続け!

KAKOのモーニング。上のコンフィチュールはどれも違う味。
マスターに聞きましたが忘れました。さっぱりして旨い。  
ビルの一画。

昭和40年代はじめのビル。

今回あまり写真を撮ってません。感動で震える手でかろうじて
撮った一枚。丼だとタレがしつこいから重にせよ、という助言を
得て注文。たしかに正解でした。もう一人前食べたかったです。








 
 

2018年7月23日月曜日

酷暑観光界

 暑くてどうにもならないから不必要にコンビニに居座り続ける。それしかできない夏。オハヨーのジャージー牛乳プリンに手を伸ばした刹那、若い母親に背負われた鎮座DOPENESS似の赤ん坊と目が合う。それだけでもう、この日の仕事は終わった気分。新入荷もあるので、ぜひお店に見に来てくださーい。と、もはや口には出せない夏。ひとまずインスタグラムに随時アップしていきますので、ぜひそちらをチェックしてください→👃  品物のお問い合わせはメールかインスタDMにどうぞ◎
 
 そんな凶暴な夏のある日、上野の櫻木画廊で開催中の松井寛泰個展を見てきました。昨年11月の弊店での展示から少し置いて、今年6月に横浜中華街の一画で開催、そこから間を空けずの展示会。八丁堀→横浜→上野と来て、次はドクメンタかエリゼかという流れがあるかどうかは分かりませんが、いま買っておいた方がいい筆頭の写真家、というか現代美術家です。
 前回の展示を訪ねる前に、腹ごしらえでチャーハンを食べたのが刷込みみたいに作用して、松井さんの展示を見るときはチャーハンを食べなければいけない気分になってました。根津から行ったので、幸い途中に名店「オトメ」があり、そこでハムチャーハンにありつけました。根津、上野、鴬谷、どこの駅からも万遍なく離れた場所なので、猛暑の中を歩くのは苛酷ではあるのですが、万全の態勢で臨んでまで見る価値のある作品が並んでます。松井さんのプリント技術へのこだわりは、しばしば同業者から変態呼ばわりされるほどなのですが、今回の作品もそう呼んで差し支えないものでしょう。松井さん本人が至って気さくなおニイさんだけに、ギャップが醸し出す静かな衝撃は稀有な体験です。会期は7/29(日)まで。25(水)・28(土)・29(日)は松井さんが終日在廊するそうです。
 

横浜の展示で少し並んでたスリットによる撮影の作品が
今回のメイン。抽象と具象の交ざり具合がカッコいい写真。
素人目には分からない超絶技巧の産物。        


ハムチャーハン。薄味。

帰りに根津の芋甚にて。今季初の氷。
芋甚 there's no heaven~と誰もが唄い出す。

 

2018年7月4日水曜日

鶏頭冠突起はおいしそう

 東京国立博物館で始まった『縄文ー1万年の美の鼓動』を観てきました。近いうちにNHKの日曜美術館で特集をするでしょうから、そうなると入場までに2年ぐらい待たされるほどの混雑が予想されます。開始早々に見ておくのが得策だと踏んで、モワッとした空気に包まれた上野の山まで行ってきました。
 国宝指定されている縄文時代の遺物6件すべての土器・土偶が出揃う(縄文のビーナス&仮面の女神の展示は7/31〜)というのが当展の呼び物ですが、概してオールスターキャストの映画が大味でおもしろくないように、これもその手だろうと舐めてかかっていたのが正直なところです。結果を言えば、トーハクの関係各位に戸別訪問で謝罪して回らなければいけないと思いました。6つの章立てのコンセプトに沿った陳列も見やすかったですし、展示ケースが壁面から離れているので、後ろにも回り込めて四方から見られるのも嬉しい作りでした。ことに国宝コーナーの展示ケースは柱状なので、グッと近くに寄って見ることで、文様を施す手跡や手取りの重さまで感じられそうでした。
 図録や資料で見た気になっていたものが実際に目の前に現れるというのは、やはりなかなか興奮するものです。人によっては物欲の嵐に揉まれて、それに耐えるだけで疲れると思います。自分は「彫刻木柱」と名づけられた能登から出た遺物2点に惹かれたのですが、かなりの大きさとおそらく重量があるので、搬出のために赤帽を依頼しておいた方がいいだろう、という程度の妄想は繰り広げました。とにかく沖縄の線刻石板とか岩手の狼形鹿角製品とか、ふだん都内近郊では見られそうもないものが出ていて胸が高鳴りまくります。
 物販コーナーの縄文グッズも充実してました。そういう変なノリはいらないぜ!という人もいると思いますが、土偶のクッションみたいのを4つも5つも買い込んだり、ピンバッチのガチャを30回くらいやってる女性もいて、すでに結構な盛り上がりを見せてました。やっぱりこの夏の必見の展示会だと思いました。で、毎度のことでしつこくなって恐縮ですが、上野から八丁堀までは日比谷線で一本です。熱中症に十分ご留意の上、逆光にもお運びくだされば幸いです。

 夏休みが始まったら人で溢れかえりそうな

開館第一弾の入場 係員に先導されながらグレイシートレインの
ように隊列を組んで入口まで向かいます          

縄文文化というのは、どこか人間の中の陽性の部分を
触発するような気がします 館内はどこかしら明るい
雰囲気でした                  

ワー

ワーワー

暑いのでひとまず甘味を 上野アトレ内の「みはし」にて
注文時にトーハクの半券提示で白玉を2個サービスして
くれます                      





2018年7月2日月曜日

緊張の夏

 垂直の熱射によって、風景はフラッシュが炸裂したまま時が止まったかのよう。早すぎる夏の到来で街が狂気を帯びはじめる中、神楽坂の路地の一画では別個の狂気が芽吹いていたのでした。一水寮101にて『骨董の起源』と題された展示が始まっています。うつわノート松本さんのプロデュースのもと、拙庵の岩橋さんとtitcoRetの牛抱さんの蒐めた物が並んでいて、見たり買ったりすることができます。
 "骨董の起源"とは大きく出たな、と思うかもしれません。が、骨董という言葉がごちゃごちゃとある古い物全般を指して云うのならば、もとよりその定義は曖昧です。二人の品物を見て、「え、これが骨董?」と世間が疑問を呈するほど、かえって価値観の共有が生むヒエラルキーの外枠を際立たせます。アウトサイドからの視点は、そのジャンルの発生当初にまで考えを遡らせるのです。
 感覚と知的好奇心を同時に揺さぶってくる展示です。この夏一番の素敵な贈りものになるかもしれません。展示を見たあとは、一水寮とほとんど背中合わせになってるこれまた素敵な喫茶店「珈琲日記」でひと休みするべきでしょう。さらにその後は東西線で茅場町まで出てきて、新川・八丁堀・新富町界隈を怖るべき七月の光に気を付けながら徘徊するのがいいと思うのです。

展示についての鼎談が行なわれた日の会場 NYの女王が来日中
竹橋のゴードン・マッタ=クラーク展と併せてぜひ

2018年6月22日金曜日

待った蔵開く

 東京国立近代美術館ではじまった『ゴードン・マッタ=クラーク展』を見に行ってきました。作家が存命であれば75歳の誕生日であったという日に、図らずもアジア初の回顧展を目にしたわけです。素晴らしい展示だったので、何度か通わなければならないと心に決めたのですが、その思いを見透かしたかのようなリピーター割引制度が本展にはあります。2回目以降は半券提示で500円だそうです(最初は1,200円)。会期は9/17(月・祝)までと長いので、あと5〜6回は行けそうな気がします。通い詰めて美術館の空間にだんだんと体を馴染ませて、ちょっと見飽きたぐらいになった頃に何かが浮かんでくるような展示だと思いました。
 ゴードン・マッタ=クラークといえば「ビルディング・カット」シリーズ。石川五エ門が斬鉄剣でぶった斬ったような絵面のインパクトが凄いんですが、現物が残っているわけもなく、映像やドローイングを見るだけじゃ物足りないだろうなーと思ってました。が、展示空間の素晴らしき作り込みによって、二次的・付随的な資料が作品そのものとなって立ち上がってくるようでした。とにかくおもしろいので、皆さんぜひ見に行ってください。そしてその後は最寄りの竹橋から東西線で一本、茅場町で下りて、MAREBITOに寄ってから宮川で唐揚げ定食を食べて逆光に寄り、新富町に抜けてさんのはちに行くという、黄金のコースで都市空間を満喫してください。
 マッタ=クラークは料理を通してのコミュニティの形成ということにも興味を持っていて、仲間内で「FOOD」というレストランを経営していました。貧乏なアーティストに旨いものを食わせたり、そこで働いてもらったりする、食べ物をパフォーマティブなアートの一環として捉えた先駆でもあります。彼の創作は作品が作品なだけに、アトリエでの孤独な営為にはならずに、いつもどこかで集まって何かやってるという印象です。「合同、まったく楽」と思っていたのでしょうか。


会場内、一部を除いて撮影可です
ぜひ実地に足をお運びください

映像作品『フレッシュキル』
マッタ=クラークの運転するトラックがとつぜん
ブルドーザーと衝突、その後スクラップされ埋められる
モンテ・ヘルマンの映画みたいでとてもカッコいい

いま当店にあるゴードン・マッタ=クラークっぽい商品です
笠石ののった石龕仏 花崗岩なので重いです 室町後期ぐらい
でしょうか                                                                 

2018年6月12日火曜日

光と影、炒飯と焼売

 横浜中華街「1010美術」で開催中の『松井寛泰 展』に行ってきました。JR石川町駅の北口を出ると、左手にすぐ西陽門という大きな門が見えますが、ここはまだ中華街ではなく、道なりに歩いて首都高の下をくぐってぶつかった交差点に聳える門が延平門で、これが中華街の西側を守る牌楼です。門柱の上に白虎が象られています。そこから真っ直ぐ二区画目、左手に見える帽子屋さんの脇を入ってエレベーターで3Fへ行ってください。小さくて白くてきれいなギャラリーが1010美術です。昨年の11月に弊店で催した松井さんの展示をオーナーの倉科さんが見にきてくださり、今回の展示会へとつながりました。

 さて早く着きすぎたので、せっかくの中華街、何か旨いものでも喰わなくては、と思うものの、選択肢が多すぎて選べないのは毎度のこと。決定回避の法則と云うそうですね。で、結局は江戸清あたりの豚まんを歩き食いしてお茶を濁すという。なので今回は不本意ながらサイトで下調べしておきました。そして候補に挙ったのが池波正太郎もエッセイに紹介したという清風楼です。困ったときの正太郎頼みもいかがなものかと思いつつ、結局そこに決定。ギャラリーからも近いので、中華街を無駄に歩き廻らずに済みます。飾り気の無いさっぱりとした店構え。さっぱりしすぎて営業してないのかと思ったぐらいです。注文は迷わずチャーハンとシウマイ。寸分違わず旨い、チャーハン界のグリニッジ天文台といった感じです。迷った時にはおすすめです。

 そして松井さんの展示です。今回は弊店で展示した「Labyrinth」シリーズからのチョイスに加えて新作「Single Slit Experiment」2点を見ることができます。「Labyrinth」もウチでは並べなかった作品が何点か掛かっています。新作はレンズの代わりにスリットを入れたキャップみたいのを取り付けて風景を撮るシリーズ。実景が縦長に伸びて、具象と抽象の分岐点みたいな図像に映ります。「Labyrinth」がスタジオ撮影だとすれば、新作はロケーションハンティング。外での撮影なので、絵面は偶然に左右されるところが大きくなりますが、ノイズの作用と超絶技巧によるプリントの美しさの拮抗が、とんでもなくカッコいい作品です。6/17(日)まで。水曜は休廊。11:30〜18:30。松井さんの在廊は土日です。聞けば、包み隠さず何でも教えてくれます。雲の上の存在になる前にぜひ。


フリッツ・ラングやムルナウのスチール写真のような
幻想性と確固たる技術の融合           

中華街の西に鎮座する白虎の門


よもやこんな場所にギャラリーが!?と思ってしまいますが

東京タワーの売店とか仲見世商店街を彷彿とさせます

勇気を出して奥へ

清風楼です ミニマルな店構え

溢れんばかり、というかすでに溢れているチャーハン

シウマイです 濃厚です




引き合いが増えてこれから忙しくなっていくようです



2018年6月5日火曜日

再び逢うまでの遠い約束

 知らずにいることが罪になる場合だってあると知ったあの日・・。ゆで太郎には実は運営会社が二つあって、創業直営の「信越食品」とフランチャイズの「ゆで太郎システム」が存在するというのです。八丁堀店の撤退後、旨い蕎麦を求めて他のチェーン店系列を廻ってはみたものの、雛鳥の刷り込みのごとくゆで太郎の蕎麦の味に馴らされた自分には、どれも満足いくものではありませんでした。ある日我慢の限界が来て、ゆで太郎の店舗一覧を調べてみると、日本橋のほど近いところに一軒あるではないですか。光速移動で店の前まで行くも、なにか自分の知ってるゆで太郎と雰囲気が違います。券売機のメニューがいやに豊富だし、店内もドラッグストアのように明るい。これで蕎麦の味が違ったら、これはもはやゆで太郎ではないのではないか。果たして蕎麦はまったくの別物でありました。一体どういうことなのか。これはこれで尊重されるべき味ではありますが、雛鳥の刷り込みのごとくゆで太郎の蕎麦の味に馴らされた自分には、満足いくものではありませんでした。と、同じことを二度言いました。
 で、調べた結果得た答えが上記の事情でして、運営会社が二つあるというわけだったのです。調べたと言ったって、ホームページを見ればその経緯が大きく載ってるので、機密事項でもなんでもありませんが。八丁堀店は信越系で、日本橋店はシステム系なのです。そんなことも知らずに、味の違いを世の移ろいのせいだと勝手に儚んでいたのでした。この無知は無垢ではなく、あえて知ろうとせずにいた怠惰の罪なのかもしれません。もはや七つの大罪のひとつです。
 というわけで、店舗検索で信越食品系統を調べてみると、新川に一軒ありました。八丁堀から南東に進路を切って、葉山マリーナみたいな感じの橋を渡るとすぐです。懐かしのメニュー。狭い間口。調理場には八丁堀店にたまにヘルプで来ていたオバチャンの顔も。ピクシーズのキム・ディールみたいな。季節のメニュー、冷豚天おろし(税込520円)を注文しました。変わらぬ味。ゆで太郎のある惑星(ほし)に生まれたことを実感しました。では、今週もどうぞよろしくお願い致します。


懐かしさというのは不思議な感情だと思いました

写真では雰囲気が出てませんが、実際にはもっとマリーナ感が
あるんです。自分以外にも写真を撮ってる人がいました   


冷豚天おろし蕎麦 豚天が三枚も

2018年6月1日金曜日

白色☆テンプテーション

 店にある李朝初期の白磁の大鉢、視界に入るたびにひとつの誘惑に駆られてしまう今日この頃。15世紀の末頃に京畿道広州の道馬里あたりで、王室や中央官庁で使うために焼かれた器です。ときおり見かける鉢よりひと回り半ぐらいは大きく、薄い挽き上げに底光りするような白。その深々とした器形を目にすると、どうしてもこれでチキンラーメンを食べたくなるのです。酒を呼ぶとか花を呼ぶとか、その器物の元来の用途とのズレを楽しむのが見立てですが、この鉢はラーメンを呼びました。



内から仄かに光りを発するかのような磁肌 
口径19.8~20.5×高さ12.4センチ 
高台径9センチ

針金のように細い金蒔き 匠の業です 

宮中の食事に関する業務全般を担う官庁である司饔院の分院に
あたる白磁燔造所がこうした磁器を焼いていたそうです   
湯を沸かして

チキンラーメンをセンターにセッティング

卵を落としました

湯を注ぎ

蓋をする
水指に見立てられてるので塗蓋が付いてます
     
三分後 いい具合

かき混ぜて完了 茶でも用意すればこれで一食分

食べ終わりました スープを飲むときの口当たりも
いいです 本来は手に持って食べる器ではありませんが

 というわけで、気が済みました。やれることはやってみた方がいいかもしれません。6/3(日)は東京国際フォーラムの大江戸骨董市に出店いたします。天気は良いようですので、梅雨入り前の古物の仕込みにぜひお出かけください。では、6月もどうぞよろしくお願い致します。