ページ

2018年5月28日月曜日

面と頭

 思い立って京都へ。ていうか滋賀へ。この土日が、ミホミュージアムで開催中の『猿楽と面 -大和・近江および白山の周辺から-』を見られる最後の機会と踏んで、涙の弾丸ツアーを組んだのでした。べつに泣く必要はないんですが。ところが、前日からの体調不良が、頭痛・腹痛・悪寒・めまいとして発現し、やっぱり泣いてしまいそうな、なかなか辛い道行きとなったのでした。楽しみにしていたチキン弁当など食べてる場合ではない具合。しかし「駅弁を食べずして何の旅ぞ!」と心の中の旅の師匠(おそらく田山花袋みたいな風貌)が声を荒げるので、それならばこれを、と崎陽軒のシウマイ弁当を購入しました。先の糸魚川行きで同道したK氏が隣りで旨そうにモスモス食べていたのを、いいなーと思って見ていたものです。今までチキン弁当一択だった自分にとって目から鱗のアイテム。味の良さ、内容の豊富さ、バランス、巧みな配置・・定番を蔑ろにしてはいけないことを痛感しました。
 体調悪いわりには結構ムシャムシャ食ってるじゃねえか、と言われそうなほどに美味しいシウマイ弁当でありました。しかし京都着いて石山に出てバスで50分、ミュージアムに着いた頃には、目の奥まで痛くなるような頑固な頭痛に苛まれていまして、呻きながら頭を抱える姿は、NIGHT HEADの武田真治のようだったかもしれません。が、この身体における非日常状態こそが、この展示内容とのアクセスを容易にする回路でもあるかもしれません。ハレへのダイブとして装着される面を支える身体内部で起こる変化は、生成の途次において病の身と同じでないと言えるでしょうか。シラフで健康の状態では見えない何かに感応できる可能性がそこにはありそうです。といったことを考えながら京都に戻ってきました。
 予定では市バスを乗り継ぎながらの名店探訪だったのですが、このままでは宝誌和尚立像みたいに顔ごと割れそうなので、宿に滑り込んで横になりました。横になれる場所があることのありがたみを感じながら、薬を飲んでその日は早寝してしまいました。病身の割には楽しい夢を見たのですが、忘れました。長時間睡眠と薬のお蔭で次の日は少しは動ける身に。お腹も空いてきていましたが、いきなりすき焼きなど食べられるわけもなく、何か果物でもと思い立ち、チェックアウトしてからフルーツパーラーヤオイソへとテクテク出掛けました。そこでロイヤルフルーツサンドというのを頼んでしまいまして、老舗の懐の深さが身に沁みた次第です。
 というわけで、名店探訪は予定を大幅にカットし、今回は上京の二店のみにお邪魔したのですが、品揃え、店構え、商いに対するアティテュードなど大いに感化されました。ほんの少しだけ仕入もさせていただきました。帰り際、京都在住の異才同業者より事前に聞いていたスギトラというジェラート屋にてアイスを買って(しかもダブル)、市バスの停留所まで走り食いしながら、新幹線で滑るように帰ってきたのでした。京都という土地の一筋縄ではいかない感がいっそう強まった旅でした。

展示の中では図抜けて怖いと思った大分奈多宮の陣道面
応保2年(1162) 散楽の先頭を歩く面ですね     






ひんやりとしたトンネル


ヤオイソのフルーツサンド この素人っぽいつくりが
かえって老舗の風格を表していると思ってしまう

食べかけです すみません
スギトラのジェラート イチゴとバニラ






2018年5月23日水曜日

宋磁に相似した草字のために

インスタグラムもぜひご覧ください→👃 

 楷書を知らずして草書を書けるのか、デッサンを理解することなく絵が上達するのか、スパーリングもしないでブラジリアン柔術が強くなるのか、という疑問符が脳内を渦巻いてとどまることを知らないので、出光美術館で開催中の『宋磁 ー神秘のやきもの』を見てきました。ふだん古陶磁を味とか雰囲気だけ見て済ませがちな古物商にとって、謂わばやきものの太い土性っ骨である宋磁を知ることは、自己流の草書を見直すいい機会に違いないと思ったのでありました。と言って、一度見て突然やきものに開眼するわけもなく、例によって、くれると言われたら何もらおうかなーとヌルい感じで見てただけですが。
 何を見たって結局は欲しいものを選別してるわけで、なかなか欲望を解き放って純然たる勉強に徹することができません。で、何が欲しかったかというと、五代〜北宋のものだという青磁盤です。径が五寸もない縁の立ち上がりが低い素文の小皿みたいなのですね。均一な青は白根山の湯釜みたいで、見てると怖くなります。これがもっと研ぎ澄まされると、汝窯の水仙盆のようになるのでしょうか。
 なんにしろ、当時の経済大国の一大産業の一端を物欲だけで見ていては話にならないので、もう二回ぐらいは見に行こうと思っています。やたらと役に立つ陶片室と眺めのいい無料の喫茶コーナーだけでもその価値はあります。

店にある中国関連もの 磁州窯の高脚杯とか天津甘栗の
袋(日本のですが)とか明末(崇禎)の古染付皿とか   
お気軽にお問い合わせください           

2018年5月19日土曜日

見えない自由が

インスタグラムもやってます。ぜひご覧ください→👃

 日頃何かとお世話になっている先輩方の主宰する交換会に参加するために、新潟は糸魚川へと行ってまいりました。偶然の天使の微笑みによるものか、行きの新幹線は新進気鋭の骨董商K氏と隣り合わせに。二人で今後の展望を話し合ったり、買ったお弁当の比較検討(チキンとシュウマイ)をしているうちに糸魚川に到着。新幹線というのは、相変わらず戦慄が走るほど快適な乗り物です。
 降り立った先に見える空の広がりは、そこに海があることを感じさせます。地図で見ればたしかに海沿いの町であることは分かるのですが、そこから頭でイメージした空間と実際の土地は、やっぱりずいぶん違うものです。脳内と実地の齟齬感があるほどに、旅の醍醐味も深まるわけで、徐々に高まるテンションを噛みしめながら会場まで歩いていきました。
 通りの店先には雁木と呼ばれるがっちりとした雪よけの屋根が付いています。商店街のアーケードはこの雁木が元になっているそうですね。ふと横を見ると海に続く抜け裏みたいな小径があったり、反対を向けば山の稜線が目に入ってきたりと、視界にとびこむ情報が多様で凸凹してる気がしました。八丁堀近辺ののっぺりとフラットな街並とは明らかに違う重層的な力が漲っていて、こういう土地が古代人の住みたいところなんだと思ったのでした。
 交換会は業界有数の大店のサロンをお借りしての開催。各店舗の年商によって結界が作用して、自分あたりでは入ることさえできないのではと思わせるほどの緊張感があります。しかしお昼にうっかり2500円の穴子丼を食べてしまったお蔭か、割にあっさりと場に馴染むことができました。有り難いことです。会終了後にはもちろん宴が張られまして、新潟はなんでも旨いという先入観があったのですが、魚・肉・酒・野菜、やっぱりどれも美味しいものでした。その後は、カラオケージョンに行ったり、帰宅の途についたり、フィリピンパブに赴いたりと、それぞれの道を歩んでいました。みんな違ってみんないいってやつですね。自分はというと、夜の糸魚川をそぞろ歩きしてみたかったので、独りナイトウォークへ。と言っても、この頃には会場や宿や駅前を何度かウロウロすることで糸魚川に対する馴染みが生じつつあって、そんな気安さから単独行動に打って出る気になったのでした。
 夜もまだたいして遅い時間でなかったのですが、電燈がまばらで街が暗い。夜がしっかり暗いというのは、いいことだと思いました。海を見に行ってみたのですが、イルミネーションでライトアップされてるわけもなく、ただ彼方に闇があるだけ。いい感じのラーメン屋を発見するも、宴会で食い過ぎてもう何も入らず。路地裏散策しようとしましたが、お化けが出たら怖いので止めにして、結局早々に宿に戻りました。狭い部屋で買った物を広げたりしまったりしてました。
 次の日も地元の会に参加させていただき、二日間で少しばかりの仕入もできました。というか、仕入をしなければただの飲み食い旅行です。常に危うい境界で一体何が欲しくて仕事してるのか、と風呂敷の重さを感じながら帰路についたのでした。

ゴダールというよりはアンゲロプロス的な海

路地の先は日本海

途中にこんな神社が

駅前の目抜き通り

海と

山に挟まれた町 糸魚川


宴会に出た魚 セイカイと言ってました
ウスメバルを新潟ではそう呼ぶそうです

夜の糸魚川

夜の散歩中にみた看板類

で、デカいと前を通るたびに言ってみる


えちごトキめき鉄道の線路

土地を売ってました どうでしょうか

帰りも新幹線 持たざる者の豪奢な旅

















 
 

2018年5月2日水曜日

仔鹿のまなざししざなまの鹿仔

 6,000年ぐらい前の日本は平均気温が今より2度ほど高くて、そこから起こる海水面の上昇で海岸線は現在よりずっと陸地に迫っていたという、地質学で云うところの縄文海進ですね。最初の調査が有楽町で行なわれたので、有楽町海進とも言われています。このところいやに暑い日が続いてますが、気象庁によると平年比+2度だそうで、もしかしたら図らずも海進気分を味わっているのかもしれません。
 さて、その有楽町からほど近い八丁堀の当店にて、民俗芸能情報サイト「仔鹿ネット」によるイベント『第三回 仔鹿のまなざし -全国編-』が5/12(土)18時から開催されます。一、二回は数ある芸能から「八戸えんぶり」にフォーカスしてお送りしました。今回のテーマは"郷土芸能で日本一周"だそうですから、旅での出来事を交えつつ民俗芸能についての概括的な話が聞けるかもしれません。主宰の高橋亜弓さんと彼女を支援する人たちの身を挺しての取材には毎度驚かせられます。いつの世も体ひとつで事を成す人の話というのは面白いものです。民俗・郷土芸能って一体何なんだというと、鎮魂とか豊年祈願などの行事なんですが、その由来来歴には様々な謂れがあれど、やはり底の底には縄文文化という共通の意識の層が流れているように思えます。といったことを考えつつ、美味い日本酒とおつまみを飲み食いしながら、いろいろ見聞きするというイベントです。会期も押し迫ってのお知らせになってしまいましたが、ご参加をお待ちしております。上記に貼り付けたFacebookページに予約フォームがありますので、そちらからご応募ください。


直近の店内写真です。気になるものが写り込んでましたら
お気軽にご連絡ください。この狭い店にイベント時には
20人ぐらい入ります。不思議なことです。