ページ

2014年9月8日月曜日

崖の上の

 武蔵小金井のはけの森美術館で開催していた「猪熊弦一郎展  どんなことをしても僕なんだ」を見てきました。この辺は、武蔵野台地から沖積層へとなだらかに下る国分寺崖線という地質にあたり、そこを「はけ」と呼ぶそうです。「はけ」の地は古来から湧き水に恵まれ、美術館の敷地内にも小さな水の流れがありました。水の豊富なところには、当然のごとく木々がよく育ちます。黒々とした木が生い茂り、その名の通りはけの森なのでした。
 猪熊弦一郎は三越の包装紙のデザインで知られますが、出自は洋画家です。とにかく器用で瀟洒な画風の人というのが第一印象です。10 歳の頃の牛を描いた絵が掛かっていましたが、子供らしからぬデッサン技術がすでにあって、あまり上手いので、尋常小学校の先生が、図工の時間は猪熊に絵を教えさせたそうです。だからと言って、ピカソみたいに悪魔的に上手くて反感を覚えるような感じはなくて、どことなく微笑ましいところがあるのは人柄なのでしょうか。描こうと思えばなんでも描ける人らしく、若い時の絵はそれこそピカソ風であったり、ゴーギャンっぽかったり、モンドリアンもどきだったりします。
 1938年にフランスに渡りマティスに絵を見てもらう機会を得ましたが、「上手すぎる」と言われてショックを受けたといいます。私なんかも小学生の頃に、教頭先生が掘り返した花壇の土に二階から正座のまま飛び込んで、担任から「馬鹿すぎる」と言われたことがありますが、子供はこんなことを言われると却って得意になったりするものです。猪熊の状況とはまるで違います。上手さが逆に枷になるとは辛いことでしょう。渡仏中は自分の身体を丸ごと作り替えるような厳しい潜行期間だったのかもしれません。
 好きなものをひとつ持っていけと言われたら(言われたことはありませんが)、樽の上に乗ったロバ?の背中に猫が載った小さなペン画をいただきたいと思いました。博物館・美術館に行くたびに妄想コレクションが増えていきますが、実際の店の方にいい売り物が並ばなければ意味がないですね。今週もよろしくお願い致します。


 
連雀通りから入る北門をくぐると、こんな
森のアプローチが美術館入口まで続きます。


分かりづらいですが、葉陰には水が流れて
います。               

0 件のコメント:

コメントを投稿