ページ

2014年5月27日火曜日

どうにもならない

 こんなブログの文章であっても、一通り書き終えた段階で、誤字脱字、文意の通りの悪い箇所はないかなど、一人校正&校閲というのをしているのです。たいていは訂正の余地がないほど酷い。一言一句を彫琢して文章を紡いでいるわけではないですが、もう少しなんとかならないものでしょうか。文は人なりという言葉が本当だとすれば、けっこう残酷です。闊達な人は闊達な文章を書き、陰鬱な人は陰鬱な文章を書く。腹黒い人の文章は腹黒いし、カッコつけてる人の文章はカッコつけていて、顔立ちが母親似の人は顔立ちが母親似の文章を書くというわけです。
 それぞれに突き詰めていって、本当にその人の人間が丸出しになれば、どんな性格の文章でも面白いものだと思うのですが、どうせならスカッと爽やかでかつ愛に満ちた文章を紹介したいと思います。
 勝小吉『夢酔独言』です。小吉は海舟のお父さんとしてよく知られていますね。やたら喧嘩が強く、露天商の親分や刀剣ブローカーなどをしていて、旗本の身分でしたが、晩年は不行跡から謹慎させらていたそうですから、ちょいワルどころではありません。そんな小吉が自分の後の代の者のために書き残した文章です。
 小吉曰く「おれほどの馬鹿な者は世の中にもあんまり有るまいとおもふ。故に孫やひこのために、はなしてきかせるが、能々不法もの、馬鹿者のいましめにするがいいぜ。」
 いいぜ・・。いかにもワルそうですね。
 そして「・・・息子が九つの年、御殿から下つたが、本のけいこに三つ目向ふの多羅尾七郎三郎が用人の所へやつたが、或日けいこにゆく道にて、病犬に出合てきん玉をくわれた。」という大事件が海舟(当時は幼名の麟太郎)のもとに起こります。 
 小吉は麟太郎を医者に運び込み、金比羅へ詣でてはだか参りで快癒の願をかけます。術後の死線をさまよう麟太郎を小吉は「始終おれがだいて寝て、外の者には手を付させぬ。毎日毎日あばれちらしたらば、近所の者が、今度岡野様へ来た剣術遣ひは、子を犬に喰れて、気が違ったといいおつた位だが、とふとふきづも直り、七十日めに床をはなれた。夫から今になんともないから、病人はかんびよやうがかんじんだよ。」
 誤字が多くて状況の脈絡がよくつながらなくても、意味は取れると思います。むやみに奔放な文体が痛快です。この頓珍漢なおとっつぁんの奇蹟の書を皆さまもご一読くださいますよう。

 
 
『夢酔独言他』勝小吉 勝部真長編
平凡社ライブラリー 2000年3月15日初版
450円

0 件のコメント:

コメントを投稿