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2014年5月22日木曜日

駅にて

 駅、それは人と人、人と物、物と物とが出会う場所。出会いの数だけドラマが生まれ、やがてそれは歴史となる・・。
 某駅構内、フランシス・ベーコンのような風貌の中年女性が、両手に西武百貨店の紙袋を持った腕を肘を伸ばしたまま、体の側面水平に上げ下げする運動を繰り返しています。ラッシュはとうに過ぎて弛緩した昼前の時間帯、少ないとはいえ皆無ではない人目を憚ることなく、単調な動きをむしろ単調であるが故に丹念に確かめるように行なっています。その様子は、極度の集中状態に入ったアスリートのように、どこか崇高ささえ帯びていると言ってもいいかもしれません。
 電車待ちの時間を利用したエクササイズなのか、近日中に催される同窓会に向けての喫緊のダイエットなのか・・確かめるすべはありません。そしてよく考えてみれば、女性の行なっている運動は、サイドレイズという三角筋を鍛えて肩幅を広くする筋肉トレーニングではないでしょうか。だとすれば、この女性、ボディビル選手権の女子マスターズの部にでも出場しようというのでしょうか。深まるばかりの謎。高まる緊迫感(自分だけ)。プラットホームに満ちた疑問符は、しかし到着する電車によって吹き散らされてしまいました。女性は動きを止めて深く息を吐いてから、おごそかに電車に乗り込み去っていったのでした。                    

『驛』幸田文 中央公論社
1959年3月20日再版 函写真 濱谷浩
SOLD OUT
濱谷浩の写真は、幸田文より松本清張に
      合いそうです。                    

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