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2020年8月3日月曜日

上毛に噛み付け

 必要緊急の案件で高崎まで。群馬県立歴史博物館で開催中の『綿貫観音山古墳のすべて』を見に行ってきました。今年の3月に文化審議会が、この古墳からの出土品を国宝に指定する旨を文化科学大臣に答申したことを受けての記念企画・・の予定が新型コロナウイルスの感染拡大により休館。7月にようやく開催の運びとなったのでした。博物館のあるのが群馬の森という公園の中で、折しも梅雨が明けて雨雲が払われた空の下に濃い緑が広がるいい場所です。園内には二科展上がりみたいな謎の抽象彫刻とかを置いたりせずに、ブールデルとか宮脇愛子を配するあたりもポイント高し。などと偉そうなことをブツブツ言いながら館内へ。
 ヴィスコンティの『若者のすべて』みたいなタイトルですが、展示物はその次の『山猫』を思わせる支配階級層の絢爛たる遺品です。上毛野国(かみつけのくに)という土地がヤマト王権の威光をいかに色濃く浴びていたかが分かる凄い展示。会場に入ってまず目にする鍍金のよく残る王子形水瓶も、参考に並んでいる東博所蔵の伝・近畿出土の水瓶より線がふくよかでナリが良く見えるし、雲珠や轡や杏葉などの馬具も中央に引けを取らない作行き。藤ノ木古墳や奈良桜井の遺物も並んでいて、見比べられるのがおもしろいところです。東国屈指の豪族の墓であることに加えて、未盗掘であったことが驚くべき質と量の原因だそうです。ズラリと並ぶ金ピカの飾り金具を見てた隣りのおばあさんが、一つぐらいくれないかしらね、と言ってました。カタギの人がそう言うぐらいですから、業者が目にした日には、物欲の滾りを見咎められて出入り禁止になりやしないかと心配になるほどです。地域の一古墳から出土した一流の文物という観点だけではなく、東アジアという大きな地理を射程に入れた流れの中での遺物、という視点を教えてもらえる素晴らしき展示でありました。生きとし生けるものすべてが見に行くべき企画展だと思います。
 梅雨もいつの間にか明けましたが、今のところは去年みたいな凶暴な暑さを発揮してませんね。夕涼みも楽しめそうないい時節。では、八月もどうぞよろしくお願い致します。

上毛の空

群馬県立歴史博物館。立派な建物です。

観音山古墳出土

伝・近畿地方出土

ハーリー・レイスとかリック・フレアーが巻いていた
頃のNWAのベルトみたいな大帯。鈴の紐帯というのか
合わせ目の厳しい作りがすごい。         

雲珠と辻金具。花弁一枚くらいならいつの日か
手に入るだろうか・・と妄想。       

杏葉各種 



八幡塚古墳。群馬は前方後円墳天国。

かみつけの里

秋葉のバス停付近


 

2020年7月2日木曜日

さわやか人間選手権

働かずして文句か男たち
       ----------宮本浩次

 梅雨の谷間の恩寵のような青空の下を全力で駆けてみたら、35メートルぐらいで息が上がりました。なんという生命力の欠如。我ながら驚きです。こんなことで、生き馬の目を抜く古物の業界で生き抜いていけるのか、それを思うと気鬱で夜も眠れず。ということは全くなく、グーグー寝てます。むしろ寝過ぎで頭が痛い。それよりも、交換会や市場も再開したわけですから、物を買える喜びや人と会える嬉しさを言祝がなければいけません。少量ながら新しい品物も並んでいるので、ぜひ店にもお運びください。
 久しぶりにブログなどというものを書き付けてみましたが、ほとんど日本語を出力する能力が退化しています。もとよりそんな能力など無かったのかもしれません。前頭葉のあたりが痛くなってきたので、今日のところはこれぐらいで。今月もよろしくお願い致します。

 
意味ありげなMVっぽい映像。

つかみ取り大会を実施したいぐらいの土器片。
ほとんどが縄文晩期のものです。      

2020年4月25日土曜日

あつまれ にんげんの林

あんなに近づいたのに遠くなってゆく
              ----------岸田繁 


 経営的なことを云うなら、常日頃から緊急事態宣言を発令している当店ですが、もはやそんな局面ではなくなりました。前代未聞の事態に、用が無いのに慌てふためきつれえのなんの(by宮本浩次)となるならまだしも、手の施しようがなくてむしろ落ち着き払った風情の今日この頃。派手に寝坊してすでに大幅な遅刻が分かり切ってるので、かえってのんびりし始めている心理に似ているでしょうか。動じず慌てず、出来る大人の仕事術10の法則。とか言ってる場合ではなくて、貧すれば鈍するで、対処すべき案件が容量を超えたために思考回路が遮断された状態です。三人寄れば文殊の知恵といっても、そもそも人の集まりが禁忌の昨今。真の独創は孤独から生まれると開き直っても、足りない脳からは何も出てきません。メールやリモートで案を出し合っても、やはり同じ空間でいろんな声を響かせ合うことには及ばない気がします。それにしても、たった一月前に差し向かいで飲んだ人たちが懐かしく感じるという不思議さ。
 
 というわけで逆光は店は閉めておりますが、インスタグラムで通信販売の品物を鋭意ご紹介中ですので、なにとぞお目通しを!→👃
 それとちょっと差し出がましいと思いつつ、友人や同業仲間の企画などをご案内。まずは漆工の相田雄壱郎さんが今月下旬から銀座のギャラリーで展示会を予定してましたが、当然のごとく中止に。まだ具体的には上がってませんが、今後何か通販的なことを画策してるようですので、随時チェックしてみてください。今回の展示については本人からもコンセプトを聞いていて、そこから察するに何やら80年代のゴダールみたいな過渡期のエモーションを纏った制作物が登場するようです。
 そして京都のトリピエさんでは渡辺林平さんの個展をwebにて4月25日から5月24日まで開催。渡辺さんは岡山出身・在住で、備前を皮切りに朝鮮や唐津や須恵などから着想を得たものまで作風を伸ばしている作家です。作品は全地下式の穴窯で焼かれるとのことで、詳しくはないのですがたぶん歩留まりは悪そうです。が、いい上がりの物が集まったみたいです。
 青山のそらんじさんは今年から満を持してインスタグラムを始めて、そこで独自の目筋で集めた物を紹介しています。開業の際のこのご時世に青山に店舗かよ!という周りの驚きを尻目に、店主は至って飄々としているようないないような、品物もそんな風情を纏ってます。
 広島に今年openした而二不二さんもかなりの独自路線を走る古物と作家ものの店。ニニフニと、日に何度も口にしたくなる屋号です。あっさりと店舗を構えてみせる土性っ骨とサイトから察せられる静謐な品揃えの対比に驚かされます。
 もう一軒驚かされるのが京都のGallery三さん。以前に高円寺で甘味処をやっていて、そこから紆余曲折を経てどうしてるのかと思っていたら、いつの間にか今年の春に京都に器屋を開いていました。肝の据わり方が突き抜けてますね。
 もひとつ、「賽」という骨董の小冊子を今年同人で刊行したのですが、そのweb版を現在公開中ですので、ぜひご覧ください→🌻 参加業者は志村道具店うまのほね坂本大toripie、逆光です。

 それでは皆様、どうかご無事にお過ごしください。収束後の解放感を夢に見つつ、今は地下潜行でもしてるつもりで、虎視眈々と世界の行く末を目に焼きつけましょう。


「賽」号外に載せた女神像です。いい像容だと思います。

 
よろしくお願い致します。 








2020年3月26日木曜日

ハッピーサーズデー

 久しぶりの投稿なので、日本語も少し忘れ気味です。"てにをは"のおかしい箇所があるかもしれませんが、流して読んでいただければ幸いです。と言っても、さして書くこともないのですが。昼前に八重洲通りを日本橋方面から八丁堀に歩いていく途中、首都高の宝町料金所入口あたりですれ違った中一ぐらいの男子が、たぶんアンパンマンのオープニングソングだと思うのですが、原曲より3つぐらい高いキーで唄っていました。声変わりの時期だろうに、やけに音域の広い子だなと感心しました。ただかなり調子が外れていて、歌というよりはノイズのようで、不確定性の今の時代に見合った音楽を模索しているのかもしれないなと思ったのでした。
 それと、家のお米が一両日中にもなくなりそうなので、午前中にスーパーまで買い出しに。都知事が煽るようなことを言うものだから、米やインスタント食品の買い物に対し早々に個数制限が出ているようです。しかしそこで慌ててさもしい人だと思われるのも癪だという見栄もあって、開店のドアが開いてもあえて悠揚たる様子で食品売場まで歩いていきました。誰も見てないのに。米売場は瞬時にして人の波です。たしかにすでにお一人様一つまでと案内が出ています。ふと横を見れば、足元の覚束ないおばあさんが一人。取りやすいようにと紳士的に脇によけたところ、やおら10キロのあきたこまちを鷲掴みにして、3つも4つもカートに積み込んでいきます。「てめえ、このババア!一人一つと書いてあるだろうが!」と殺伐とした雰囲気が売場に立ちこめます。なるほど、これがホッブズが『リヴァイアサン』に書き記したところの万人の万人に対する闘争なのか、と感心しつつ、もはや自分も選ぶ余地はなく、同じあきたこまちを抱えてレジまで。こんな高級な米でなくてもよかったのにと思いながら。文庫本より重いものを持ったことがない文弱の徒に、10キロの荷物を携えての帰途はあまりにも過酷でありました。
 3月も残り僅か、出来得る範囲でよろしくお願い申し上げます。
 

店内写真です。ごちゃごちゃしてますね。

2020年1月23日木曜日

大常設展、それは・・

 22日から大常設展が始まっています。仕入れた品物を店に並べて、来店されたお客様に見ていただくという企画です。それって普通の営業じゃね?と疑義を呈する方もおられると思いますが、概ねそのとおりで、それをイベントの体裁にして人を呼び込もうとするのは、マルセル・デュシャン的な詐術のようですが、そんなスマートなアイロニーでは済まない切実さが、ダダ漏れになるほど流れていることに気づいてほしいのです。
 参加店舗は敬称略・順不同で、画餅洞(京都)、百芍丹(京都)、大吉(京都)、toripie(大阪)、タユタフ(石川)、南方美術店(東京)、gallery uchiumi(東京)、Antique what's(東京)、Galerie Azur(東京)、弊店逆光(東京)。古物や骨董や器が好きで、ふだんからお店や企画展示を巡っている人ならば、これが尋常ではない布陣であることに気づくはずです。業界の一枚看板から清澄な眼の新鋭、やや常軌を逸した品筋の業者までが、店舗巡りの楽しさの復権を賭けて集いました。と言っても、各々がそれぞれのお店で通常営業をしているだけですが。
 あれだけの物量の品が一同に集まるわけですから、イベントが楽しいのは言うまでもないのですが、ある程度の大きさの施設に人や物が揃うと、どうしても公的な色彩を帯びてきます。するとそれが私的な(この場合は店舗)ものをつまらなく思わせてしまいます。古い物が好きになったきっかけがイベントだという方は、ぜひそこから私的空間の仄暗いゾーンにダイブを試みてください。店主たちは手ぐすね引いて待っているはずです。

たのしいものがあるはずだけど・・という店主の
私的な妄念が渦巻く場所、それがお店です。  

2020年1月3日金曜日

狩人の昼

 新年明けましておめでとうございます
 旧年中の皆様からのご厚誼によって2020年を
 恙無く迎えられましたことに
 心よりの感謝を申し上げます
 本年もどうぞよろしくお願いいたします


 2000年代という西暦のよそよそしさにもそのうち慣れるかと思っていましたが、なかなかそうもならずに迎えた2020年。数字の並びがもたらす無機的な近未来感は格別ですが、これといった感慨は湧かないものです。大晦日はしいたけ占いの2020年上半期を見て、来るべき年に向けての作戦を構築しようと考えていましたが、途中でRIZIN.20が始まったので止めました。とにかくジョン・マカパという選手の打たれ強さには恐れ入りました。こういう肝の太さと土性っ骨を、遅ればせでも養っていかなければならないだろうと感じました。すごく取ってつけたような感想ですが。

 明けて元旦、例によって山谷のカフェバッハまで。近未来なのに、やることは毎年同じ。これがドゥルーズの差異と反復というやつでしょうか。違いますか。素敵なタイミングで待たずに入れたことがなによりでした。当たり前のように旨いものを出して、なんの気取りも衒いも見せずに続けていくことの凄さに、毎度頭が下がります。下がりまくります。それから浅草寺を突っ切って、フルーツパーラーゴトーへ。これも毎年同じ。まるでギリシャ悲劇のように避けられない宿命であるかのごとく。浅草寺の参拝客の溢れかえりぶりには毎度のことながら驚愕します。境内に200億人ぐらいはいるんじゃないでしょうか。地球人口77億の時代にあって考えられないことです。列について初詣を済ますまでに5年はかかるでしょう。果たして5年後の日本はどうなっているのかと思いを馳せつつ、居酒屋の軒先で出してるモツ煮込みとゴトーの冬色パフェを食って帰途につきました。

 次の日は東京国立博物館へ。年始の落ち着いた雰囲気の公的機関で学級の徒を気取りたい。と思っていたのですが、意に反して凄まじい混みっぷり。現在、高御座と御帳台を無料公開中なので、そこに人々が押し寄せていたのでした。密度の濃い行列がすでに噴水広場からも目に入って、ちょっと腰が引けました。その影響なのか、常設展示もいつもよりは賑わっていましたが、素晴らしきものを見る楽しみは、皆で分かち合わなければいけません。あーいいなー、欲しいなーとか、いちいち聞こえよがしに声に出して廻ってしまいました。はしたない振る舞いではありますが、いいものを見たら致し方のないことです。
 いいもの見すぎて糖分が足りなくなったので、上野駅のみはしで苺クリームあんみつ。トーハクや都美の半券を見せると、白玉2個のトッピングサービスがあります。人として忘れたくないことですね。

 そんな次第で予測不可能な近未来ではありますが、改めまして本年も逆光を何卒よろしくお願い申し上げます。


巷で噂の横河の兎 
白鬚橋 イルミネーション用の化粧を纏って
いるそうです              

バッハ 尊いですね

10種の果実の冬色のパフェ 
北斉の菩薩立像

後背の細工がすごい

握りしめたくなる量感

徐渭『花卉雑画』からの一葉

『不動利益縁起絵巻』14世紀 南北朝時代
身代わりで冥界に連れて来られた不動明王を巡って
黄泉の国は大パニック!みたいな愉快なノリの絵巻物

慌てて頭を下げる冥王その他
「うげっ!マジか!ヤバい奴連れて来やがった!!」
みたいなシーンなんでしょうね       

隼人石像碑拓本
ルチャリブレのレスラーみたいに見える鼠

みはし 苺クリームあんみつ