庄野潤三はいわゆる第三の新人と称された一連の作家のひとりです。こうしたジャーナリスティックな呼称は、作品の概観や雰囲気はある程度伝えますが、書かれたものを個別に味わうと途端に無効になります。庄野潤三の文章は、たとえばよく知られた『静物』なんかを読むと、「」の会話文や改行が多くて紙面が白々としており、難しい言い回しも出てこないし、政治的な葛藤や思想転向のシーンも描かれません。イメージの中にあるいかめしい文学とはずいぶん違う。それでいながら、純度の高い童話か詩でも読んだような気持ちになり、すごい小説を読んでしまったと感じます。同じ第三の新人に分類される小島信夫のすごさとは全然似つかない。
ごく簡潔な言葉の連なりが、どうしてこんなに面白いのかが何度読んでも分からない謎の作家、庄野潤三こそが今年度下半期の日経ヒットランキングの大穴ではないでしょうか。
当店の庄野潤三在庫です。微温的と評されますが、 研ぎ澄まされた文体は、けっこう厳しいのです。 |
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