というわけで、Hさんのお店にはSさんに車で連れていってもらったのでした。窓越しに見る外観からして、すでにフォトジェニーなオーラを漂わせています。それでいながら、辺りを払うようなこれ見よがし感がないのは、店主の性格と才量によるものでしょうか。Sさんのところといい、岐阜の発するオルタナティブな気風は革命の萌芽を予感させます。夜にはHさん行きつけの、これまた旨いものを出すお店に案内していただきました。近辺に軒を連ねる飲み屋のレベルがどこも高そうで、田中小実昌のような徳を備えてないと、おいそれとは入れなそうに思えました。
ところで懸念されるのは台風の進路で、なにやら変則な動きで人々を困らせているようです。次の朝は大須の骨董市に詣でて一山当てようと目論んでいたのですが、仮に開催されても出店はかなり少ないでしょう。果たして勇んで乗り込んだ大須観音ですが、案の定出ている人たちはいつもの半分以下のようです。それでも買い出し屋さんの荷解きを待って、ガツガツと漁ってまいりました。
観音様脇の喫茶店でのモーニングの最中、S氏が愛知の異能の古物商Oさんに連絡を入れていました。Oさんの品物の選択眼やスタンスは、自分にとってほとんどリスペクトの域に達しています。この日は旅の目的のふたつ目である愛知県陶磁美術館の『知られざる古代の名陶 猿投窯』を見に行くことになっているのですが、大須に仕入にやって来るOさんが、合流後に美術館まで車で送ってくれるとのことでした。なんという僥倖。
途中から美術館への道は、2005年に開催された「愛・地球博」会場への輸送手段として建設されたリニモの高架下に沿っていきます。ふいに書店勤務時代に、この万博関連の書籍やグッズが、売場に並べ切れないほど納入されてくるのに嫌気がさしたのを思い出しました。「なにがモリゾーとキッコロだちくしょう!こんなもの爆発してなくなってしまえ」ぐらいには怒っていたような気がします。このとき衝動に従って会場を爆破していたら、こうして愉快な珍道中にも出られなかったわけで、人生の内に遍在する機運を感じずにはいられません。さて、陶磁美術館の展示は言わずもがなのことながら、欲しいけど手に入らないものだけが並んでいました。指をくわえて見るという所作だけが妙に洗練されてきたりして、指咥道という流派を設立しようと思ったぐらいです。
この後はOさんが多治見近辺の骨董屋さんを案内してくれて、何軒かお店をのぞくことができました。一応仕事のつもりでいるので、仕入の機会が増えるのは良いことです。品物の筋が東京とはずいぶん違うところがあって、そんなのを目の当たりするのも新鮮でした。多治見駅でOさんと別れて、名古屋に出てきしめんを食べて東京に戻ってきました。台風の雨脚とは微妙にズレていたようで、濡れずに帰ってこられたのですが、日頃の行ないの良し悪しは関係なさそうです。いろいろとお世話になることが多く、人の親切が身に沁みた旅でした。では、8月もどうぞよろしくお願い致します。
岐阜で見かけた一軒。とつぜん左腕の静脈を切断されそうな 佇まい。 |
大須観音。初めてやってまいりました。雨が降ったり止んだり。 |
愛知県陶磁美術館の中庭。この頃には台風の気配が一時的に 消え去って、夏休みの始まりみたいな青空でした。 |
南山9号窯跡。平安後期〜鎌倉後期のもの。 |
今展示の図録。税込2,500円 図版はもちろん、資料ページも充実していています。 王様のブランチのブックランキングで紹介されても おかしくありません。 |
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