ただいま当店にて開催中の伏木庸平『うぶの渦』。20日が最終日です。
困惑、衝撃、戦慄、恍惚、陶酔・・、さまざまな情動が渦を巻いて
遍在する怖るべき空間です。お見逃しなく!
21日(日)は東京国際フォーラムの大江戸骨董市に出店いたします。
皆さまのお越しをお待ちしております。
書肆逆光という店は、ふだん古本やあまりよく分からない物を売買している場所なのですが、現在いつにも増して得体の知れないものが陳列されております。伏木庸平(ふせぎようへい)という人物が作り出した、とりあえず刺繍作品と呼んでおきますが、どうにも名付けようのない物体です。一年ほど前にお客さんとして足を運んでくれていた伏木さんと、ひょんなことからこの店で展示をしようという話になったのですが、「ひょん」というのは、もともとホヨだかヒョウだかいう寄生木のことを云うそうで、その不可解な生態を指して、世の突飛な事態を意味する言葉として派生したそうですから、まさしく「ひょんなこと」で展示の運びとなったのです。
異様に集積した糸によって、縒れ、捻れ、凸凹し、波打った作品は、孤独のうちに営々と築き上げられたシュヴァルの理想宮のようにも、前衛的なオートクチュールのようにも見えてきます。刺繍というのは手の内でちくちくと動かしていくものですから、作品の見映えに比して、製作に生じるアクションは小さなものです。それをひたすらに繰り返すまさにひとり文化服装学院の趣き。作品を握り続けるあまり、いつしかそこに作家の体臭が染み付くことさえあるそうで、ある時、自分では知覚し得ない自身の匂いを人に指摘され、身体性が図らずも作品の外に漏れ出してしまったことに作家は衝撃を受けたと言います。作家のそうした鋭敏でささやかな批評性が、作品の情念に満ちた野放図さと極度に知的な洗練さを共存させているようにも思えます。
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