例によって、どれか好きなものあげるよ、と言われた時に何を持ち出すかを物色しながら館内を練り歩きました。まずは鎌倉時代の信貴形水瓶。せめて獅子の鈕の部分だけでも欲しいものです。そして何と言っても法隆寺所蔵の行道面10面のうちの2面である獅子頭。作行きが良いからなのか、平安時代のものであるにもかかわらず、隣に陳列された室町の獅子頭より新しく見えます。狛犬もすごいものが数体ありましたが、抱えて持って帰る手間をおそれて、滋賀県大津市不動寺の石造の小さな狛犬一対にしておこうと勝手に決めました。これなら獅子頭をひとつは背負って、もうひとつは被ってしまえば、あとは持ってきたカバンに収まりそうです。いい展示は、こういう不埒な妄想を許す余地があるように思います。
見るからに速そうな佇まい |
唐揚げ弁当及びお〜いお茶 |
受付にてチケット購入後、このアプローチを くぐって美術館に向かうという演出 |
雨で烟った風景が荘厳な雰囲気に拍車を かけます |
ランチを食した後バスで下界へと戻り、京都駅から市バスで百万遍へ移動。時にゴッドとさえ称される山本善行氏が銀閣寺近くに営む古書善行堂へ。小説があり詩集があり映画や美術の本があるという古本屋としてオーセンティックな構えの店。質量遥かに及ばぬながら、ウチもこういう感じにしたいなーと指針にしている店です。去年12月にこちらにお邪魔をして古本屋を始めますと勝手に宣言し、そして今年開業しましたと勝手に報告にあがった次第。アドバイスと激励と詩書2冊をいただいた後は市バス17番で京都市役所まで。河原町通りと寺町通りに挟まれた路地に店舗を構えるヨゾラ舎に向かいました。こちらは当店より少し早い3月に開業され、上林暁ばりの哀切なユーモア漂うブログが毎日アップされています。そこに刻まれた日々の苦闘はもはやひとごととは思えず、時おり自分と同一人物なのか?と錯覚してしまうほどです。ヨゾラ舎さんの強みは音楽関連書籍。店主の山本氏が元大手レコード店勤務だけあって、選書の目が利いています。文学関連も少数ながら粒選りのものが並んでいます。
二店で購入したもの 『パンテオン 第十號』第一書房 1929年1月 日夏耿之介、平井功、城左門 他 『半仙戯』石川道雄 同学社 1954年4月1日初版 『永田耕衣全句集 非佛』 冥草舎 1973年6月15日初版 |
宿へと向かうべく、市営を乗り継いで嵯峨嵐山駅へ。観光地として名高い場所ですが、すでに暗くなった後では人もまばら。落日の都という言葉が浮かぶほどに辺りを漂う寂しさ・・。
爽やかに晴れ上がった次の日の朝。せっかくの都、ベタな観光気分に浸るために早めにチェックアウトを済ませ、宿からほど近い天龍寺と渡月橋へ向かいました。天龍寺は期間限定早朝拝観実施中。紅葉は名残ながら、まだ随所で楽しめました。渡月橋辺りの風景は、時の彼方に去っていたかと思われた記憶を鮮やかに甦らせてくれました。修学旅行の自由行動の計画は完全に人任せだったので、当時は自分がどこを歩いているのか分かっていなかったのですが、そうか、ここが渡月橋だったんですね。何かが音を立ててつながった感覚。脳内が一気に覚醒。これが茂木健一郎云うところのアハ体験というやつでしょうか。
落ち葉のせいなのか、いい匂いが 漂っています |
作庭は伝夢窓疎石 |
人の気持ちを高揚させる紅葉 |
あー、ここかあ。と叫ばずには いられなかった渡月橋 |
院内には軸ややきもの、茶道具の名品が各席に置かれており、自由に出入りして見ることができるという贅沢ぶり。曾我蕭白や俵屋宗達の水墨画、一休宗純の墨跡や大聖武経、本阿弥光悦の黒楽茶碗、古田織部の茶杓などどれもすごいものですが、ただ、歴史上の名品が目の前にあるという事実に気圧されたのか、どれを見ても心が動かないという事態が発生。このような場においての立ち居振る舞いを全く身に付けていない自分の無教養さの引け目が、頂点に達したのかもしれません。とにかく何を見ても、「ふーん、すごいなあ」と思うだけ。いちいち物欲を介在させないと物が見えないというのは、やはり下衆な見方なのでしょうか。不埒な妄想が、この清廉な場では完全にシャットアウトされています。お道具拝見のような物の見方では、視線が空を泳ぐだけ。徐々に気分が塞いできて、何度もすすめていただいた茶席にも、結局入らずに出てきてしまいました。
都の文物というのは、やはり手強いものだと感じ入りました。ガラクタを値踏みばかりしている眼なんかは、あっさり跳ね返されます。なんだか憂鬱な京都行きになりましたが、「お茶会」とか「茶道」ではなく「茶の湯」というものには出会ってみたい気持ちになりました。まだまだ過ぎた望みのようですが。
それと、点心で出された瓢亭の仕出し弁当が、またやたらと旨いもので、これには驚きました。
利休七哲の一人、細川忠興創立の高桐院 |
こんなふうに記念の写真をパシャパシャ 撮ってる分には、楽しい京都です |
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