初っ端から興奮の坩堝に投げ込まれ、次に鬼の雪隠&俎へ。こんな考古遺物が、なんの隔てもなく野晒しになっているところが、奈良の恐るべきところです。亀石なんかも普通に生活空間に溶け込んでいて、ハラルド・ゼーマンがキュレートするドクメンタ以上に前衛的な風景です。
石舞台古墳は周辺が整備されて、やや観光地の趣きを見せていますが、それでもあんな巨石が積み上がって野原に佇んでいる様は、原初的なモニュメントとしてこれ以上手を加えることができない圧倒的な完成度を誇っています。あまりの完成度に腹が減ったので、レストランに入って古代米カレーを食べました。かつて飛鳥の人々も食したのであろうか。いや、そんなわけはない・・と思いを馳せながら。ふと窓の外を見ると、茶色の柴犬と目が合いました。飼い主たちが食事中のため表に繋がれているようですが、ちょっと不安な面持ちです。と思ったら、注文を済ませた飼い主一行が外のテーブルに着いたので、無事に柴と合流。とたんにクルクル回り出して安堵の表情を浮かべていました。これが茶毛安堵明日香ってやつか・・と思いながら次は酒船石遺跡まで。
この酒船石というのがまた暗黒神話っぽいというか三つ目がとおる的というか、途方もない想像力と接続して何かを産み出す根源のような存在に思えました。小高い丘の上の竹林に囲まれたロケーションが、いっそう神秘さを際立たせています。対して、丘の下にあるもう一つの遺物である亀形石造物というのが、場末の公園の噴水設備のような侘しさを醸し出していました。斉明天皇の時代の湧水施設であったとのことですが、木の樋からちょぼちょぼと落ちる水の音に、遺物としてのリアリティを強く感じました。
そして次は飛鳥寺。日本前衛芸術の総本山と呼びたくなるほどに、何かしらヤバいエッセンスを凝縮して湛えている寺院ですね。拝観料350円を払って靴を脱いで引き戸を開けて板間に上がると、鞍作鳥作の釈迦如来坐像がいきなり目に飛び込んできます。明日香はいつだっていきなりです。何かを隔てることなく、物との直接対峙。大仏さんは創建の時に据えられた石造台座に安置されていて、研究によるとその台座は創建時から動かされていないそうです。つまり、建立の時以来ずっと同じ場所に鎮座しているわけです。自然物ならまだしも、人工の制作物が1400年も同じ場所に在るという事実の凶暴性に恐れ戦いてしまいます。一画の展示室には創建時の瓦などが惜しげもなく並んでいて、ひと押しすれば、おみやげに一個ぐらい包んでくれるのでは、と思ったほどです。
境内を西に抜けると、鎌倉時代はありそうな立派な五輪塔があって、これは蘇我入鹿の首塚です。大化の改新で板蓋宮にて討たれた首が600m離れたここまで飛んできたという伝説ですが、こんな前衛的な風景を見てると、伝説ではなくて事実だったに違いないと故なき確信を得ます。
次は奈良文化財研究所飛鳥資料館。博物館の体裁である分、直接性が薄れて置かれた物にもオブラートがかかって見えますが、石人像とか須弥山石とかの実物を見せられると、存在の耐えられない重さに耐えられなくなってきます。こんな物を作っていた時代との連続性をどこに見出せるのか。線上に平滑に進んでいるような歴史にも、どこかに凹凹の切断があるのだろうと思いました。
この時点でもう結構な夕方。本当は諸星大二郎感漲る益田岩船を見なければいけないのですが、地図を見ても道が覚束ないし、自転車の返却時間も迫ってるしで、今回は諦めた次第です。簡単な行き方をご存知の方がいらしたら、ぜひご教示ください。
というわけで、師走の明日香疾走記、令和の騒々しさとはかけ離れた夢のような時間でした。今年も残り僅か。もう少しお付き合いくださいませ。
こういう造形に目が慣らされていないというか、 どう判断していいか分からない物たち。 |
吉備姫王墓。 |
明日香の風景。嘘のように長閑。 |
鬼の雪隠。割とカッコいい。 |
鬼の俎。写真だとなんだかよく分からない。 |
嘘のような。 |
亀石です。どちらかと言うと蛙みたいですが。 |
石舞台古墳。かなりコンテンポラリーです。 |
石舞台の中。 |
紅葉越しのぼんやりとした石舞台。 |
古代米カレー。ぷちぷちして美味い。 |
酒船石。ウオーって声が出ます。 |
ウオーっ。 |
ウオ。 |
亀形石造物。 |
祭祀用の設備だと言われています。 |
飛鳥寺銅像釈迦如来坐像。 国指定重要文化財。国宝ではないんですね。 |
後世の補修がかなり入っているとはいえ、この威容。 |
石人像。古代の噴水施設と言われています。 |
須弥山石。庭園用の噴水施設とのこと。 |
押出仏・・欲しいですね。 |
山田寺の窓枠。巨大な菓子型かと思いました。 |
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