ページ

2019年8月13日火曜日

バーニング・ヘル 灼熱列島24時!〜前篇〜

 人類を滅ぼさんとする何者かの邪悪な意志さえ感じる苛烈な暑さが、かえって旅情をそそるので、思い立って滋賀に行ってきました。4年前に坂本で開かれた交換会の後に連れて行ってもらった石塔寺の三重の石塔をもう一度見たくなったのでした。4年前は車を出してもらって、そこにくっついていただけなので楽でしたが、今回自分で計画を立ててみたら、電車とバスがうまく連絡しないので困り果てました。京都から近江八幡を経てたどり着いた桜川という駅が最寄りなのですが、徒歩で35分ほどかかるようで、炎天下の知らない土地をそんなに歩いたら死ぬかもしれないと思い、ちょっと腰が引けてしまいました。すると、やけに小さなバスがやって来て駅前に止まりました。いやに覇気を欠いた運転手の男性に聞くと、寺に行くのであれば石塔口というバス停で降りればいいとのこと。迷わず乗り込んでホッとしたのも束の間で、降りた先からはさらに15分ぐらい歩かなければならないようです。駅と寺の中間あたりの、進むも退くもままならないような場所に降ろされ、直射を避ける日陰の無い道を途方に暮れながら石塔寺の方に歩いていきました。
 青々と向こうに続く稲穂と草の匂いは、子供の頃のいつかの夏休みの記憶につながり、それがさらに頼りない気持ちを増幅させて、白昼夢をさまよっている気分にさせます。凍らせて持ってきたペットボトルを頸動脈や腋の下に当てて、体温の上昇に気をつけながら、それでも汗だくになって石塔寺にたどり着きました。空まで続くような石段を見たら、あいまいだった4年前の記憶の焦点がぴったりと合った感じになりました。




空のように青い車輛。近江鉄道八日市線。

硬券というやつですね。久しぶりに見ました。


桜川駅。絵に描いたような無人駅です。



途方に暮れる系の風景。

天国への階段のような158段あるという石段。
ジミー・ペイジとロバート・プラントはここに
来たことがあるのだろうか。        


 階段を上った先には、7世紀の後半頃に造られたと言われる三重の石塔があります。材は硬い花崗岩でありながら、ふっくらと緩やかな屋根の形がはんぺんのような軟らかさを思わせる特異な形状は、見飽きることがありません。あきらかに半島由来の造型物が、近江の地にぽつんと点として屹立してることに驚きます。そのまわりを無数の五輪塔がぐるりと取り囲んでいる様や、石仏群が奥へと続いて彼方に消失点を結んでいるのは怖いようでもあります。拝観者は他に誰もいませんでした。

初層の軸石が二つ合わさっているところが、
得も言われぬかっこよさです。      

頭頂部の相輪は後補ですね。

韓国扶余で見た定林寺址の五重石塔。

どれか一個くらい・・と良からぬ思いを抱かせる光景。






 再訪はいつになるのか、網膜に焼きつけるように石塔を視界に収め、名残を惜しみつつ石段を降りました。で、降りてから重文指定されてる宝塔と五輪塔を見忘れていたことに気づきました。だいぶ体力は削られていましたが、まあいいかと言って帰るわけにもいかず、取って返して重い足を引き摺るように石段を上っていきました。そびえ立つ石塔。こんなにも早く再訪を果たすとは。宝塔と五輪塔はやっぱり見てよかったと思いました。特に五輪塔は、紀年の分かるものが横並びになっているので、石造美術の編年を窺い知るには絶好の実例です。

左が嘉元二年(1304年)、右が貞和五年(1349年)。
鎌倉時代後期から南北朝時代に入る半世紀足らずの
期間でも造形感覚の変遷が見て取れます。
左の方が重心が低く量感があります。

宝塔は正安四年(1302年)のもの。

 気も済んだことだし、気温も35℃になろうとしてるし、贅沢ながらここはタクシーを呼びつけようと、駅で控えておいたタクシー会社に電話してみたところ、「全部出払ってます。手配できません。」という取りつく島のない返答。まさかこの局面で駅まで徒歩での帰還を余儀なくされるとは想定外です。というか、はじめから何の想定もしてないので内も外もないのですが。
 マスターキートンの何話目だったか、丸腰で砂漠に置いてけぼりにされた状況から、サバイバル技術を駆使して生還する話がありましたが、近江の地で図らずもキートン気分に浸ることになりました。しがない古物商は世を忍ぶ仮の姿で、実は特殊空挺部隊の伝説的マスターであるという設定を己に課し、行きのバスの窓から見えたローソンに着くまで残り少なくなったペットボトルで生き延びなければなりません。田んぼ越しにローソンの青い看板が遠目に見えているので、行き倒れることはないと分かっていながら、眩しすぎる太陽の下では何が起こるか分かりません。とか言いながら、あっさりローソンに到着。危ないところでした。ここで気を抜いて冷たい強炭酸水をガブ飲みしてしまうと、かえって体調を悪くします。焦らずにからあげクンで塩分補給。同じ状況下であればキートンもそうしたに違いありません。炎天下の東近江で食べるからあげクンがいちばん美味い。これは過たず的を射た真理です。
 往年のド・キャステラのように元気になったので、宿を取ってある近江八幡まで走っていけそうでしたが、タイミングよくバスが来たので無理をせず乗り込みました。知らない土地で乗るバスは、詩情を湛えていていいものです。

これほどまでにローソンの存在を有り難く感じたことが
かつてあってだろうか。いや、ない。         


遠目には駄菓子屋のようにも見える桜川の駅舎。



 降り立った近江八幡駅はすでに37℃に達していました。外気温が人間の微熱と同じとはどういうことなのでしょうか。あきらかに違うステージに突入していることを、顔面を灼きつける放射熱によって否応なしに知らされます。そんな微熱 MY LOVE的状況ながら、ラーメン食ってチェックインして間を置かずにバスで日牟礼八幡宮まで。さすが近江八幡、境内に「たねや」の茶屋があるんですね◎ 甘味と冷気を求めてガットゥーゾばりのスライディングで滑り込みました。

黒蜜きな粉のかき氷。

つぶら餅。

八幡堀。 
八丁堀辺りも昔は水路の町でした。

 奥に行くと八幡山に上るロープウェイがあります。子供の頃からロープウェイとモノレールを見ると乗らずにはいられないので、ここで例外をつくるわけにはいきません。



八幡山から望む琵琶湖。

龍神ぽい雲。

痩せた仔猫。

 という感じで前篇は終わりです。後篇はそのうち。旅情を削ぐような暑さとの戦いでしたが、それでも遠くに出かけるのは楽しいですね。お店はお盆も営業しているので、避暑のつもりでお立ち寄りください。何はともあれ、皆さまくれぐれもご自愛のほど。






0 件のコメント:

コメントを投稿