恩寵が降って湧いたような爽やかな日曜日。しかも店は定休。どこぞで何をしさらそかー、と飛び起きて銀座に行ってきました。まずはエルメスに今季秋冬の新作をチェックしに。というのは当然ウソで、ここの10階で定期的に上映している映画を観に行ったのでした。折々にテーマを定めてそれをタダで(!)見せてくれるのです。エルメスという企業は、この無料サービスに対して従業員4人を配置していて、そのうえ入場時にイタリア製のキャンディーまで配っておりました。ビッグメゾンの、労働分配率を一切眼中に入れない贅沢さに恐縮しながら、最前列に着席。プログラムはマイケル・パウエルの『血を吸うカメラ』という素敵なセレクトです。学者の父親に幼少時に心理実験の対象とされていたトラウマから、殺人を犯すようになった男の話。封切時は酷評に晒されて、以降この監督はまともに映画を撮らせてもらえなくなったという呪われた作品です。ベル&ハウエルの手持ちカメラの三脚の一部が仕込みのナイフになっていて、その刃先を女性にちらつかせて恐怖におののく顔をフィルムに収めるという・・よほど演出が冴えてないと、かなり変な映画になりそうですが、やはり当時はキワモノ扱いだったようです。死後に再評価されて、コッポラ、スコセッシ、ジョージ・A・ロメロ等が影響を受けたといいます。
そんな呪われ気分を仄かに背負いながら、銀座ウエストでお昼ご飯。トースト、スープ、ケーキ、コーヒー3杯(おかわり自由)という豪気さで呪いを浄めてから、コーヒーっ腹を揺らしながら、資生堂ギャラリーにて開催中の『かみ コズミックワンダーと工藝ぱんくす舎』へ。エルメス→ウエスト→資生堂なんて、札所巡りみたいな銀座漫遊ぶりですが、意外とこういう定番の組み合わせは今までしてませんでした。それにしても凄まじい人の波。この100分の1でも八丁堀に流れてもらうための動線設計をどうしたらいいのか、星野リゾートの社長になったつもりでシュミレートしてみたのですが、何も思いつかず。
で、資生堂の展示ですが、紙、石器、土器片、ガラス瓶などを配することで、古代の風景が銀座の地に現れてくるところに感じ入って、結構長い時間見てました。見てるうちにどこかしら旅に出たい衝動に駆られて、交通費の計算などを始めてしまうぐらいでした。
その後も銀座を多いに闊歩する予定でしたが、コズミックワンダー展に思いのほか魅せられて時間がなくなり、ジャスティン・ガトリンほどの速度でヒューマントラストシネマ有楽町へと駆け付けました。ジム・ジャームッシュの『パターソン』を観なければならないのです。時おりは詩人たちが出入りしたりもする店を商っている以上、必見の映画として以前からチェックを入れてました。とかいって、これで来る詩人の誰ひとりも見てないとか言ったら、片っ端から大型の磨製石斧でメッタ打ちにしてやりたい・・。そんな健やかな暴力性を誘発する毒をジャームッシュはまだ秘めていました。観たら詩の本を手元に置いておきたくなるかもしれません。その時こそ、ぜひ当店へとお運びください。では、今月・今週もどうぞよろしくお願い致します。
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