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2019年10月19日土曜日

それなら奈良ならではの

 最近ちょっと縁がある奈良での仕事のあと、お世話になっている方の車に同乗させてもらって、まほろばツアーに行ってきました。通いはじめの頃は経費を浮かそうと高速バスを使うも、どこも開いてない朝の6時にJR奈良駅前に放り出されて途方に暮れたのも、今となってはいい思い出です。というのはウソで、地の利のない寒空の下になす術も無く棒立ちでスタバの開店を待っていたのは、癒えることのない心の傷です。というのもウソで、伸びやかに広がる奈良の地は、馴染みのない自分をも優しく迎えてくれているように思えました。と、そんなふうにウソを重ねることしかできない自分にも、奈良はいつだって心を開いてくれる・・。
 みたいなことを思い返しながら、まず向かったのはコスモス寺で知られる般若寺。いろんな案内で見かける通り、ほんとにコスモスがモスモス咲いていて、心が浮き立ちます。この日は霧雨が降ったり止んだりで、風景が雨露に霞んでいるのも情感をいっそう際立たせていました。そびえ立つ十三重石宝塔も、威容を誇るというよりは、目に柔らかく馴染んできます。境内の手入れが隅々まで行き届いているのではなくて、適度に破れ寺のような雰囲気が漂っているあたりも非常に好み。京都の寺社に比して、いぶし銀の艶を放っているように感じます。いぶし銀と言えば木戸修ですが、ピンフォール率の極めて高いキドクラッチのごとく、捕まったら逃げられない魅力がたしかに奈良にはあるのです。

あなたの優しさが沁みてくるような穏やかな光景 
十三重石宝塔。昭和39年の大修理の際に塔内から
多数の納入宝物が発見されたとの由。高さ14.2m。 
笠塔婆と呼ばれる形式の石塔としては日本最古の
作例。建長元年(1261)建立。        
  花崗岩製で高さは4.46mと4.76m。        
この時期は本堂裏手で白鳳秘仏を公開中です。200円払って番小屋みたいな建物(宝蔵堂)に入って見るのですが、並んでいるものはだいたいどれも欲しいです。水晶の小さな五輪塔が横並びになってるのを見た日には、陳列ケースのガラスを拳でぶち破りたくなる誘惑に駆られました。そんな激情を抑えつつ、次は浄瑠璃寺へ。場所は木津川市なので住所こそ京都府ですが、場に漲る空気はほぼ奈良です。そして境内へ至る参道の売店付近には小さな猫たちが!さらに目を遣れば、饅頭のごとくに連なった猫たち・・。なるほど、ここはたしかに仏教が説くところの、清く澄んだ瑠璃の世界なのかもしれません。
 中に入れば、浮き島を隔てて彼岸と此岸を分つという池と本堂と三重塔が、一気に視界に飛び込んでくる、異界へと誘う伽藍の布置。本堂にはもちろん、あの国宝九体阿弥陀如来像が祀られていますが、うち二体は修繕の最中なので、現在は七体です。入れ替わりで修繕していくので、九体揃い踏みは2023年頃になるようです。網膜に焼き付けんばかりに見てしまったのが、如来さんたちを安置する台座である須弥壇です。鎌倉時代の作で、目の詰まった材の木味と、そこに付けられた連珠と剣頭と巴の飾りの金味の見事さは、見てるだけでご飯がすすむと思います。

惜しげもなく仔猫が二匹。 
さらに三匹。下の潰れた猫は笑ってます。

本堂である国宝九体阿弥陀堂。手前に写り込んでいる
石灯籠も貞治五年(1366)のもので重文指定。    


国宝三重塔。治承二年(1176)に京都一条大宮より
移築。中に安置された秘仏の薬師如来像は毎月8日と
春分の日と秋分の日、1月の1・2・3日、8・9・10日の
天気のいい日に開扉。              

                   


葉に溜まった露まで甘いのでは、と思わせる風景。
最後は忍辱山円城寺。"にんにくせん"と読むんですね。中村光夫だったか、学生の頃に"にんじょく"と読んだら、「それはにんにくでしょ。あんた、帝大生のくせにそんなことも分からんのですか」と郵便配達のおじさんに小馬鹿にされたエピソードを読んだことがあります。小林秀雄訳のランボオ『地獄の季節』の詩句に出てきますね。燃え上がる忍辱の鎧を着て、という一節。にんにく。にんにく。念のため二度書いておきます。ここのお寺はなんと言っても、運慶最初期の作である大日如来坐像(国宝)が安置されていることで知られています。まあ、とにかく凄いものです。ランボオも天才なら、遡ること700年、運慶も恐るべき才に恵まれてしまった人です。

入母屋桧皮葺の楼門は応仁二年(1468)の再建。


 各種交通機関を乗り継いで廻っていたら、どれほど見ることが出来たものか知れないところを、宿にチェックインするまでに三つも寺社仏閣を堪能できました。ちゃっかり助手席なんぞに乗せていただいて、ちゃっかり人生ここに極まれりといった感じですが、お蔭様で、古くは寧楽と記したこの地の土地の力のようなものの一端を感じることができました。
 今回仕入れた品は、店に並べているのもあるし、11月2日(土)3日(日)の鎌倉古美術展に持っていくものもあります。ご覧いただけましたら幸いです。
 

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